土地活用にはアパートやマンションを運営する賃貸経営や駐車場経営など、さまざまな土地の活用方法があります。数ある活用法のなかでも、待機児童が社会問題として話題になっていることから、特に保育園事業が注目されています。
ただ、保育園事業とはいっても、土地のオーナー様のなかでも保育士の資格をお持ちの方は少ないかと思います。そのため、資格がない状態では保育園事業を始めることができないと考える土地オーナー様もいらっしゃるでしょう。
実際には、土地のオーナー様が保育士の資格を持っていないとしても、保育園事業を始めることが可能となっています。
そこで今回は、資格を持っていなくても始められる保育園の借地事業についてや保育園を始められる土地の条件を解説していきます。加えて、保育園事業の始め方や土地を貸して保育園事業を始めるメリット・デメリットも解説しますので、土地活用として保育園事業をお考えの方の参考になれば幸いです。
その他、土地活用方法について詳しくは以下の記事もご覧ください。
保育園には需要があるのか?
待機児童問題は社会問題として話題になりますが、実際のところ保育園には需要があるのでしょうか。保育園市場を取り囲む市況を見てみましょう。
令和3年現在までの待機児童数の推移を見てみると、減少傾向にあることがわかります。これは、保育園設立に対する新制度による公的な補助が始まり、従来よりも格段に経営しやすくなっているためです。
保育所等待機児童数及び保育所等利用率の推移
とはいえ、保育を必要としている子どもが多くいるという現状は変わらずあります。
都市部とそれ以外の地域の待機児童数
特に生産人口の多い都市部を中心として保育園は満室の状態が続いています。土地を活用することで待機児童問題に貢献できるのが保育園経営という方法なのです。
保育園を含む介護施設経営について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
保育園経営の経営方式
土地活用で保育園を経営する方法は、大きく2つにわけられます。
- リースバック方式を採用する
- 事業用定期借地契約を結ぶ
それではひとつずつ見ていきましょう。
リースバック方式を採用する
保育園を運営したい事業者から建設協力金を受けて土地の所有者が保育園を建設し、完成した保育園を事業者に貸し出す方法がリースバック方式です。
リースバック方式では、事業者から建設協力金を受けられるため、開園にあたっての自己資金の負担を減らせる点がメリットです。建設後は事業者に保育園を貸し出すため、土地の所有者は賃料という形で収入を得られます。
運営初期は建設協力金を事業者に返済しなければなりませんが、少ない自己資金でも開園できる点が大きなメリットです。また、保育園の種類によっては多額の補助金を受けられることもあるため、建設協力金の返済もそれほど難しくはありません。
すべて自己資金でまかなわなくてよい分、開園までのハードルが低く、その後の保育園の運営も事業者に任せられる点がリースバック方式の特徴です。
事業用定期借地契約を結ぶ
土地のみを貸し出し、保育園の建設から運営を事業者に任せる方法が、事業用定期借地権の特徴です。保育園を開園するまでの手続きや資金の負担などをすべて事業者に任せられるため、手間をかけずに土地活用をできる点がメリットです。
事業用定期借地権では、10年から50年の間で土地の貸し出し期間を設定できます。合計の契約期間が50年未満であれば、契約満了後に再契約して貸出期間を延長することも可能ですが、契約を延長しないで土地を返還してもらうという選択も可能です。
契約満了後に土地を返還してもらう場合は、更地にして返還か、建物を残して返還のいずれかを契約時に決められるため、建物を残す場合は引き継いで経営することもできます。
また、他にも土地を貸して土地活用を行う方法には、太陽光発電があります。
所有する土地でどのような土地活用種別が良いのか迷ったときは複数の土地活用プランを一括請求・比較できるサービスを使うことをお勧めします。イエウール土地活用なら、複数のプランを比較して収益性の高い土地活用方法を見つけることができます。
\最適な土地活用プランって?/
活用事例:子どもたちの成長を支える、 光あふれる保育所が完成。



エリア | 神奈川県 |
土地面積(㎡) | 752 |
延べ床面積(㎡) | 499 |
工法 | 木造軸組 |
ミサワホームでは自治体との調整、運営者様とのマッチング、設計・施工までトータルにサポート。
また、視線の「抜け」のある広々とした空間設計や、木の構造体をそのまま出した温もりのある「あらわし」、隣接する畑から野菜を運べる小路など、建物内外に子どもたちの五感を刺激するさまざまな工夫を実施。地域の待機児童解消に貢献しながら、子どもたちの健やかな成長を目指した、こだわりの保育園が完成しました。(ミサワホーム株式会社の土地活用事例)
保育園経営を始める上での土地の条件
認可保育園として保育園経営を始めるには、いくつかの条件を満たす必要があります。
保育の質を一定以上に保つために自治体が定める面積や設備を満たさなければならないという基準があります。
園児を預かる余裕のある面積を確保できる
保育園では、保育を行う専用の部屋だけでなく屋外遊戯場や調理専用の設備を保有している必要があります。
園児1人あたりの必要な面積が決まっており、保育室では満二歳以上の子ども1人あたり1.98平方メートルが必要です。同様に園庭に関しては、1人あたり3.3平方メートルが必要とされています。
例えば、世田谷区では45人以上、港区では60人以上の育児をするスペースとして十分かどうかが基準として設定されています。
そのため、多くの場合は300㎡以上の敷地面積が必要になるでしょう。したがって、狭小地で認可保育園の経営を始めることは難しくなっています。
避難経路が確保できる
保育施設としての安全性を担保するために、避難経路が確保できるということも重要です。
保育園だけでなくアパートやマンションなどの居住目的の建物では共有事項ですが、敷地外に出ることができる避難経路を二方向で確保する余裕をもって建物を建築することが必要です。
幅員4m以上の道路に面している
保育園の安定経営のためには、送り迎えに便利な道路に面していることが重要なことは想像通りでしょう。
建設条件としても幅員4m以上の道路に面していることは必須の条件であることが多いです。
このように、そもそも法規制によっては保育園経営が難しい場合もあるので注意が必要です。
一定期間の賃貸借契約が締結できる
安定した事業の継続性を担保するために、一定期間の賃貸借契約を締結できることを条件として設定している自治体もあります。
例えば東京都港区では、10年以上の賃貸借契約が締結できることが条件とされています。
<参考>東京都港区 保育施設整備候補物件募集要項
<参考>東京都八王子市 八王子市家庭的保育事業等事業認可等事務取扱要綱
需要があるのに保育園が増えない、待機児童の数が減らない理由はこの条件の厳しさにあるといっても過言ではありません。
逆に、設立条件を満たすことができれば保育園経営は安定経営をのぞむことができるでしょう。
土地活用による保育園経営の始め方
ここでは、事業用定期借地権で保育園事業を始めるときの流れを解説します。
- 土地活用の専門業者に保育園による活用を相談する
- (各自治体に保育園の開設が可能な土地かを確認する)
- 業者経由で保育事業者を選ぶ
- 借地契約のための書類を作成し、契約を結ぶ
- 市町村に保育所開設の提案する
- 市町村による審査後、知事から認可がおりる
- 工事の着工、保育園の開園
- 契約終了後、解体して土地の返還
次に、借地契約を結ぶ事業者が見つかれば、契約内容を話し合って決めていきます。「契約期間は何年にするのか」「賃料はいくらに設定するのか」などしっかりと話し合いましょう。
そして、事業者と借地契約を締結したら、実際に土地を貸し出し、毎月の賃料を受け取ります。また、市町村への申請等は事業者が行うため、契約締結後は特にするべきことはありません。
ただ、土地を貸しているとはいえ、その土地のオーナーであるため、近隣住民に工事が始まることを知らせるなどのことをしておくと事前にトラブルを防ぐことができます。
土地活用は、事前の情報収集が成功か失敗かを分けるカギとなります。土地活用を検討されている方は、失敗例についてもみておくとよいでしょう。
土地活用を検討している方は、イエウール土地活用で複数企業から土地活用プランを取り寄せ、比較することが可能です。こちらは土地の貸し先を探すサービスではありませんので、注意してください。
\最適な土地活用プランって?/
保育園で土地活用をするメリット
他の土地活用よりも資金面でのメリットは大きくなる場合も多く、金銭的な問題を軽減したい人にも保育園事業は向いています。
安定した収入が見込める
土地活用では商業施設やレストランの経営などもありますが、これらは利用者の数によって収入が増減します。
しかし、保育園事業では事業用定期借地権やリースバック方式で始めることがほとんどであるため、何十年もの間、安定した収入が得られることになります。
また、賃貸経営ほど多くの収入は入ってきませんが、その収入は固定資産税や都市計画税と相殺することも可能となっています。
地域に貢献ができる
せっかく土地活用をするなら、地域に貢献したいと考えている人に保育園経営は向いています。保育園は公共性の高いものであり、開園することで地域に貢献しやすいです。
土地活用にはさまざまな方法がありますが、その中でも特に地域への貢献性が高いものの1つとして、保育園経営があげられるでしょう。
節税効果が高い
保育園事業で土地を貸すと、固定資産税や都市計画税が免税になる地域もあります。
東京23区では、令和5年3月31日までに条件を満たすことができれば、その次の課税年から5年間もの間、固定資産税や都市計画税が免税になります。
所有している土地が、このような減税の対象になる地域であれば、一度、保育園事業を検討してもよいでしょう。
資格がなくても始められる
保育園事業では多くの場合、土地や建物を貸し出して事業を始めるため、土地のオーナーが保育士の資格を持っている必要はありません。
また、自分で経営する場合でも、保育士の資格は必要ありません。ただ、保育園の種類によって、スタッフは保育士の資格が必要になる場合があることは覚えておきましょう。
土地活用としての保育園経営のデメリット
保育園経営をするには、注意すべき点がいくつかあります。
- 近隣住民の理解を得る必要がある
- 開園するまでに時間がかかる
- 感染症対策やアレルギー疾患対策が必要
- 建物の転用が難しい
注意点も正しく把握して、失敗なく土地活用を行いましょう。
認可が必要で設置基準などが設けられている
保育園の開園には認可が必要であり、設置基準が設けられています。認可を受け、設置と配置両方の基準を満たさなければ、保育園の開園はできないことは覚えておきましょう。
詳細な基準は、開園する保育園の種類によって異なります。種類ごとに必要な設備の基準だけではなく、スタッフに求められる資格なども異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
近隣住民の理解が得る必要がある
保育園を開園する際には、近隣住民からの理解を得ておかなければなりません。保育園を開園すると、近隣の住民から子供の声がうるさいなどの理由で、騒音トラブルが起きることもあります。
開園後のトラブルを防ぐためにも、事前に説明して理解を得ておくことが大切です。事業用定期借地方式で開園する場合は、事業者が近隣住民への説明を行うため、自身で説明をする必要はありません。
開園するまでに時間がかかる
保育園の開園には、近隣住民からの理解を得たり、建設までの認可を受けたりと時間がかかります。また、建物の建設にも時間がかかり、実際に収益化ができるまでは、長期間を要することは覚えておきましょう。
開園の準備を始めてすぐに収益を得られるわけではなく、準備期間中にもさまざまな支払いが発生するため、安定した経営を目指すには自己資金に余裕を持っておくことが大切です。
感染症対策やアレルギー疾患対策が必要
入園児の安全を守るために、感染症やアレルギーの対策が必要です。入園児には感染症やアレルギーのリスクがあり、正しく対策をしていないと重大な事態に発展することもあります。
大切な子供の命を預かっていることを意識して、衛生面や安全面には細心の注意を払わなければなりません。
建物の転用が難しい
一度保育園を経営すると、その後別の土地活用を始めようと思っても、建物を転用することが難しいです。賃貸住宅や店舗経営の場合は、リフォームやリノベーションで別の用途に転用しやすいですが、保育園は建物の構造により、他の使い道を見つけづらいです。
将来的に別の土地活用をしたいなら、場合によっては建物を取り壊す必要があり、多額の解体費用がかかります。保育園のまま経営し続けるなら問題はありませんが、将来的に別の土地活用をしたいと考えているなら転用が難しく、その後の土地活用の幅が狭まりやすいことは理解しておきましょう。
保育園経営は地域貢献ができ安定した収入が得られる土地活用方法
数ある土地活用の中でも、保育園の経営は地域貢献ができる点が大きな特徴です。また、入園児を確保できるなら、一定期間は利用し続けてもらえるため、安定した収入が得られることも魅力です。
保育園の開園にあたってはさまざまなハードルがありますが、経営を事業者に任せたり、自身は土地の貸し出しのみを行ったりすることで、ハードルは下げられます。自分に合った保育園の種類や経営方法を見つけ、地域貢献と安定した収益化の両方を実現しましょう。