市街化調整区域とは市街地から離れた郊外や田畑が広がる田舎の土地のことを指し、原則として再建築不可の土地です。
しかし、活用の余地がないように思われる市街化調整区域も、条件を満たすことで活用することができます。土地活用で建築した施設の利用者が増えれば町・村おこしも不可能ではありません。
この記事では、市街化調整区域の土地をそのまま放置してしまっている方に向けて、特徴から開発許可の申請方法、建物の有無に応じた活用術などを紹介します。
どの土地活用を始めるかでお悩みの方は、以下の記事をご覧ください。
市街化調整区域とは都市計画法で区分される
市街化区域と比べられることが多い市街化調整区域は、都市計画法によって市街化区域かどうか区分されています。これら2つの特徴は次の通りです。- 市街化調整区域:市街化を抑制する地域で、住宅や施設の建設などの目的とはしていないため、原則は建物を建てることが認められていない地域
- 市街化区域:住宅や商業施設が密集するエリアで、市街化を率先して行っている地域
たとえば、田舎の風情に合わないビルや商業施設をつくってしまうと、住人から苦情が入ります。森や林・田んぼや畑の土地を開発せずに、自然を重視する点が市街化調整区域としての分類です。
一方、市街化区域では住宅地が密集していることで利便性を高めるため、交通網やスーパー、病院など生活に欠かせない店舗施設を積極的に建設しています。都市計画法第7条に制定されている内容として、この2つに分かれているわけです。
条例に基づき、市街化調整区域では、人が住むために必要な住宅や商業施設を建築することは、原則として認められていません。
市街化調整区域の3つの特徴とは
さまざまな制限を設けられている市街化調整区域ですが、おもに3つの特徴を持っています。どんな特徴があるのか、チェックしておきましょう。市街化調整区域の開発には制限
市街化調整区域では建物を建てるなど、土地開発を求めるときにはさまざまな制限の壁がのしかかってきます。基本は、「新しく建物を建てられない」というのが代表的な制約で、既存している家の建て替えや増築、リノベーションにおいても原則として許可が必要です。たとえば、今の家では古くて家族全員が住むことができない場合は、自治体に開発許可申請をしたり建築許可を取ったりする必要があります。また、登記簿謄本で自分が所持している土地が「宅地」になっているのかを確認しておく必要もあるでしょう。
登記簿謄本の地目に「農地」と書かれていれば、農地としてのみしか売却することができません。少し面倒だと感じてしまいますが、中には開発が認められている領域もあるため、どうしても建物を建てたいのであればチェックしてみましょう。
開発が認められる内容一覧
制限の多い市街化調整区域でも、土地・建物開発が認められている場合があります。具体的には下記の内容の通りです。概要 | 具体的な施設 | |
---|---|---|
第1号 | 開発区域に住んでいる人が必要な施設 | 店舗・学校・理美容院など |
第2号 | 鉱山や観光資源の設備 | ホテル・遊園地・ゴルフ場など |
第3号 | 自然的条件を有する施設 | |
第4号 | 農林水産物の処理・貯蔵・加工をするための施設 | |
第5号 | 農林業活性化における施設 | |
第6号 | 中小企業の共同施設 | |
第7号 | 既存の向上事業を効率化するための施設 | |
第8号 | 危険物の処理・貯蔵施設 | |
第9号 | 道路など交通を確保する施設 | ガソリンスタンド・コンビニなど |
第10号 | 市街化区域に隣接していて環境を損なわないと認可されたもの | |
第11号 | 市街化区域に建設ができない施設 | 寺・墓・ゴルフ練習場・老人ホームなど |
第12号 | 条例によって市が区域や用途を限り定めたもの | 住宅の増築や改築など |
第13号 | 既存の権利の届出によって行われるもの | 自己用住宅など |
第14号 | 市街化区域において困難、または著しく不適切で、開発審査会の許可を得たもの | 寺・納骨堂・ゴルフ練習場・老人ホームなど |
上記は、都市計画法34条に制定されている開発が認められている基準で、第11号から第14号が認可されれば建物を建てることが可能です。自身が所有している市街化調整区域の土地で施設を開設したいときは、概要を参考にしながら最寄りの不動産会社に相談をしてみてください。
インフラ整備が不十分
市街化調整区域は、本来、住宅として推奨されている土地ではなく、自然や資源を守るための地域であると認識することが必要です。つまり、電気・ガス・水道などが整備されていない、将来その区域で整備される保証もないということを頭に入れておかなければなりません。インフラとは「インフラストラクチャー」の略で、生活していくための電気・水道・ガス・道路・鉄道・病院・学校などを指しますが、市街化調整区域は整備がしっかり確保されていないことが特徴です。災害時に道路が崩落して、生活インフラがすべてストップしてしまったという事例もあり、人が住んでいればライフラインの遮断は重大な課題でしょう。
たとえ自分の所有している土地に建築許可が下りても、店舗であれば集客の見込みが望めないことから、インフラ整備においても十分チェックしておく必要があります。
日常生活に必要な施設がなく不人気
日常生活においてのライフラインは、道路や電気・水道・ガスだけではありません。スーパーやコンビニ・ストレスを発散できるような娯楽施設も必要ですが、市街化調整区域では、こういった施設がないことが不人気につながります。たとえ売却価格を下げたところで、生活しにくい点がネックとなり、なかなか買い手がつかないのが現状です。これから生活をするために土地を購入するのであれば、ライフラインがしっかりと整備されている市街化区域を検討しましょう。
市街化調整区域を建物なしで活用する5つの方法

建物を建築することに制限が設けられている市街化調整区域ですが、建物を建てることなく活用する方法はあります。主に5つの具体的な方法を挙げてみましょう。
売却を優良な不動産会社に依頼
市街化調整区域は規制がかかり、なかなか売却ができない不人気な土地のため、どうしても売りたいときは不動産会社の営業力にかかってきます。もっとも大切なのが、市街化調整区域について詳しい知識を持った優良な不動産会社を探すことでしょう。とはいえ、素人ではどこの不動産がよいのか見当もつかず、結果的に知識のない不動産会社に依頼してしまうことも多いようです。そこで、優良な不動産会社を探す方法としては、日本最大級の不動産情報サイト「イエウール」の利用がおすすめです。
土地の管理までしてもらう資材置き場
市街化調整区域の土地を比較的ラクに活用するためには、木材や鉄鋼の置き場所がよいでしょう。ただ土地を業者に貸し出すだけで、基本的に運営・管理を行うことがないため、土地の所有者が何かをしなければならないということがありません。業者に土地を貸して地代を得る形という、ランニングコストがかからずに長期的な収入が望める点では、初心者でも眠っている土地を活性化しやすいでしょう。駅から遠かったり周辺に商業施設や住宅がなかったりすることで、条件に合わない駐車場経営に不向きでも、割と需要があるので検討してみる価値があります。
しかし、定期的な利益は得られるものの、大きな収入については望めないのが資材置き場利用の特徴です。土地を貸すだけで大金が得られるという甘いビジネスはないため、大きな利益を期待している人には向いていません。
簡単な整備で始められる駐車場経営
土地を整備するだけで手軽に土地活用をしたいと考えるなら、駐車場経営がおすすめです。アスファルトにせずに枠線を引くだけの青空駐車場であれば、初期投資を大幅に節約できます。たとえば、月極駐車場として長期契約をすることで、毎月安定した収入を得ることができる点でも魅力的でしょう。コインパーキングもありますが、ある程度の利用者がいないとなかなか思うような収入には結びつかないため、郊外では月極駐車場が推奨されます。
もしも思うような経営ができなくても、他の用途として使いやすく、とりあえずの活用法としても問題ありません。
造成なしで太陽光発電
フィールド設置型の太陽光発電設備であれば、建築基準法においての建物という認識がないことで、開発の許可がいりません。よく空いた土地に、太陽光パネルを設置している風景を目にしますが、市街化調整区域の土地活用としては画期的な方法でしょう。地上に直接設置をするフィールド設置型の太陽光発電設備は、一定規模の発電システムを設置することで、固定価格買取制度が適用されます。マンションやアパート賃貸経営であれば、建築物として許可が必要で、ランニングコストもかかるでしょう。
また、造成した場合においては、土地の区画形質の変更に該当することで、開発の許可が必要です。太陽光パネルの故障などもあり、保障制度の有無や定期的なメンテナンスに気をつけなければなりません。ランニングコストを抑えながら、毎月まとまった収入を望んでいる人におすすめの活用方法といえるでしょう。
墓地として業者に貸し出す
ある程度広い土地であれば、霊園や墓地の業者に貸し出して収入を得る方法があります。墓地であれば、郊外など市街化調整区域のような不人気な土地でも需要が高く、毎月まとまった収入を得ることができるでしょう。また、土地を貸し出すだけの活用法で初期投資がいらない点でも、これから初めて土地活用をしたい人にぴったりです。ただし、広い土地であることが条件で、一度墓地にしてしまうと辞めるのが困難になるというデメリットがあります。
墓地として貸す以上は、数十年以上は土地を返してもらえないと思っておいたほうが、後々トラブルになりません。自分の世代だけでなく、子や孫の世代まで受け継ぐことができる土地なのかを、十分に話し合ってから決めましょう。
建物ありの市街化調整区域の2つの活用法

市街化調整区域の土地は、建物がない場合だけでなく建物がある場合も含まれます。建物ありのときの市街化調整区域の活用法を紹介しましょう。
場所に寄らず需要がある高齢者向けの施設
高齢化社会に向けて、老人ホームの需要性は広がりつつあり、市街化調整区域のような不人気な土地でも求められています。具体的には、サービス付き高齢者向け住宅や特別養護老人ホームなどが挙げられますが、サービス付き高齢者向け住宅とは、民間事業者が運営しているバリアフリー対応の賃貸住宅です。一方、特別養護老人ホームは、自宅での生活が困難で介護が必要な高齢者が入居できる、介護保険施設のひとつとして挙げられます。民間運営の有料老人ホームと比べると低賃金で、募集者が多くて待機を余儀なくされている高齢者が増えていることが現状です。需要性が高いからこそ、市街化調整区域の土地を有効活用できるおすすめの方法といえるでしょう。
地域の利便性を高める日用店舗
市街化調整区域の土地を建物として活用するときは、農家などの人たちが住むために必要な日用店舗に限られます。たとえば、飲食店・コンビニ・薬局・診療所など毎日の生活に必要な店舗は、市街化調整区域の土地でも建物として活用可能です。コンビニの場合「リースバック方式」と「事業用定期借地契約」の2つの方法があり、リースバック方式はコンビニ側に土地と建物を貸し出します。一方、事業用定期借地契約は、店舗の建設費などすべてコンビニ側が負担する契約で、土地を貸すだけでも収入になるのが魅力的でしょう。
ただし、リースバック方式に比べて土地のみを貸し出す事業用定期借地契約は、毎月の収入は安くなります。土地のみを所有しているのであれば、負担が少なく手軽に始められる事業用定期借地契約がおすすめです。
市街化調整区域で開発許可の申請方法とは

市街化調整区域で土地を有効活用する場合、開発許可の申請が必要です。どのように申請すればいいのか解説します。
開発許可をもらうまでの手順
市街化調整区域の土地において開発許可をもらうには、主に8つの工程があり、順を追って進めていく必要があります。- 事前届
- 標識の設置・住民説明・説明報告書の提出
- 説明報告書の縦覧・見解書の提出
- 事前協議
- 開発事業協議
- 協議締結
- 開発許可申請
- 許可
上記の手順で行いますが、法第29条開発許可申請までには、さまざまな工程を経てたどり着く長い道のりであることに気づかされるでしょう。まず、建物(店舗)を建てるのであれば、周辺の住民に説明・同意が必要で、前もって土地開発をしたい旨を伝える「事前届」の準備をします。
提出された報告書は市長が縦覧をして、住民からの再意見書の提出があれば、申請者に見解書の提出が求められるでしょう。協議を重ねて集約された意見を基に、申請者は公共施設などの管理者や事業者と、開発事業協議を何度かにわたって行います。
市長と申請者が開発事業協議の内容について協議締結をし、提出された書類を基に法第33条の技術基準の審査スタートです。申請によって土地開発許可がおりれば、市街化調整区域の土地を有効活用することができます。
農地なら開発のため転用が必要
市街化調整区域の土地が農地である場合、建物を建てて活用したいときは宅地に転用する必要があります。農地の転用手順を挙げてみましょう。- 農地転用の届け出
- 検査
- 農地転用を許可
まず、市街化調整区域を農地に転用したい旨の届け出を行う場合は、開発行為が伴うことで検査を受けます。ただ単に「農業をやらないから」という理由だけでは転用はかなり難しく、専門的な知識と時間が必要です。
農地所有者が農地転用するのか農地転用して売買するのか、宅地にするのか、駐車場や所有者にするのかなど細かくチェックが入ります。
また、申請人(開発者)は誰なのか、たとえば自分の土地を貸駐車場として複数に人に貸す場合は、農地法第4条の許可が必要となり、申請人は土地所有者です。所有地を開発したいのであれば、きちんと農地開発申請をしましょう。
申請を代行してもらう場合の費用
所有する土地を活用したいけれど、自分ではどうしたらよいのか分からないと思っている人は、土地開発の専門家(行政書士)に依頼すると効率的です。しかし、気になるのが費用の問題ですが、基本は業者への報酬と手続きのときの開発行為関係手数料と考えましょう。
また、プラスして必要書類の準備のときの諸経費も上乗せされるため、多めに予算を立てておくべきです。
たとえば、0.1ヘクタール未満の比較的狭いエリア開発では、自己ビジネスで13,000円前後で、ビジネス目的で開発するか自分で活用するかによっても費用が異なります。目的に応じて費用が変化することは、土地活用したいときにしっかりと頭に入れておきましょう。
開発許可がおりるまでの期間
土地開発の許可がおりるまでの期間は、手続き内容によって都市計画法条例も変わって期間が異なります。主な手続き内容と処理されるまでの期間を見てみましょう。手続き内容 | 都市計画法条項 | 処理期間 |
---|---|---|
開発行為の許可 | 法第29条第1項 | 21日 |
開発行為の変更許可 | 法第35条の2第1項 | 21日 |
工事完了公告前の建築制限解除の承認 | 法第37条第1項 | 7日 |
建ぺい率など制限を超える建築許可 | 法第41条第2項 | 21日 |
市街化調整区域の開発許可を受けた土地以外の建築許可 | 法第43条第1項 | 21日 |
開発許可に基づく地位継承の承認 | 法第45条 | 7日 |
市街化調整区域内で土地活用など行う際は、このような開発許可申請を行う必要があります。
市街化調整区域は制限があるが活用できる

今回は、市街化調整区域と都市計画法の関係性や特徴、活用する方法などについてみてきました。制限のある市街化調整区域は市街化区域に比べると制限が多く、そのまま野放しにしている人も多いようです。開発申請など手間がかかりますが、活用したいなら土地開発を行いましょう。
記事のおさらい