アパート経営をしているオーナーが亡くなったとき、オーナーはアパートを建てる際に組んだアパートローンが返済途中なのはよくあることです。
その場合、「被相続人の債務であるアパートローンは相続の対象になるのか」「対象になるのだとすれば誰が相続するのか」など、アパートローンに関して不安に思うことが多くあると思います。本記事ではアパートローンの返済が残っている物件の相続について実際の手続きも含めて解説しています。
アパートローンは相続対象になる
アパートローンの残高があるアパートを相続するとき、相続人はアパートだけでなくアパートローンも相続することになります。
この章ではアパートローンの相続について、分かりやすく解説していきます。
「マイナスの財産」として相続する
アパートローンは、被相続人の「マイナスの財産」として相続人に相続されます。
相続とは、亡くなった人が所有していた財産を配偶者や子供が受け継ぐことです。
相続される財産には「プラスの財産」と「マイナスの財産」があります。相続人は、相続発生時に全ての財産を相続することになります。
なお、相続税は「プラスの財産」の評価額から「マイナスの財産」の評価額を控除した金額が課税対象となります。
そのため、アパートローンの相続は債務を相続するという側面以外に、相続税を抑える効果があるという側面もあります。
プラスの財産とは
「プラスの財産」とは、金銭的に価値のある資産や権利のことです。たとえば、以下のようなものが該当します。
- 預貯金
- 有価証券
- 不動産(土地、自宅、賃貸物件など)
- 借家権や地上権
- 宝石などの貴金属、骨とう品
- 自動車、船舶
- 事業用資産
- 債権
- 知的財産権
- ゴルフ会員権
- みなし相続財産(生命保険金や死亡退職金、個人年金など)
など
マイナスの財産とは
「マイナスの財産」とは、被相続人の借金や債務、未払金のことです。たとえば、以下のものが該当します。
- 借入金(住宅ローン・アパートローンの残債、クレジット残債務、自動車ローンの割賦の残金など)
- 未払いの税金や公共料金、費用、賃借料など
- 預かり敷金、保証金、建設協力金
- 買掛金、前受金
- 保証債務、連帯債務
- 葬式費用(債務控除として)
など
被相続人の葬式費用は、厳密には被相続人の債務ではありませんが、相続税法上では「債務扱い」としてプラスの財産の相続税評価額から差し引くことができるものです。
マイナスの財産の相続人の決定には、債権者の承諾が必要です。支払い能力のない人が相続人になってしまうと、融資を完済してもらうことが難しくなるためです。
そのため、アパートローンの相続人については、金融機関と相談しながら決めることになります。被相続人の契約時に法定相続人から連帯保証人を設定していれば、その人が相続人となるのが一般的です。
団信に加入していればローンを相続しない
被相続人が団信(団体信用生命保険)付きのアパートローンを契約していれば、保険によって残債が免除されるため、アパートローンの相続が発生しません。
団信とは、ローンの契約者が死亡したり、高度障害を負って返済能力を失った時に、保険会社が金融機関に保険金を支払って残債を相殺してくれる保険です。つまり、被相続人が団信に加入していると、保険によってアパートローンの残高は0円になるため、相続人が返済を続ける必要はありません。
また、アパートローンは相続されませんが、残債のなくなったアパートは、そのまま相続人が相続することになります。
相続予定のアパートがある場合は、まずは被相続人が団信に加入しているかどうかを確認するとよいでしょう。
なお、団信に加入していない場合、返済途中で後から団信に入ることはできません。
アパートローンだけ相続放棄はできない
被相続人が団信に加入していなかった場合は、アパートローンの相続が発生します。
残債が大きい場合、「相続放棄」を考える方もいらっしゃるかもしれませんが、アパートローンの債務を選択的に相続放棄することはできません。
相続放棄は、相続人の「プラスの財産」も「マイナスの財産」もあわせた全ての財産の相続を放棄する手続きです。
ローンの残っているアパートだけでなく、その他の財産についても相続できなくなってしまうため、相続放棄を行うかどうかは慎重に判断しましょう。
また、「アパートローンの連帯保証人」である場合は、ローンの負債自体は放棄できても、連帯保証人としてのローンの返済義務は放棄できません。連帯保証人の方は、必ずアパートローンの残債の返済を引き継がなければならないことに注意が必要です。
コラム:アパートローンは相続税対策になる?
巷には「アパートローンを借り入れてアパートを建てると相続税対策になる」という言説があります。
アパートの建築で相続税が節税できるのには、2つのカラクリが関係しています。
1つは、他人に貸借している土地・家屋は、貸している部分に応じて相続税課税のベースとなる相続税評価額が減額されるということです。
そして2つ目は、相続税は「プラスの財産とマイナスの財産を通算した評価額」に基づいて課税額が決まるということです。これら2つの理由によって、土地の相続税節税対策として、土地オーナーにアパート建築を勧める人がいるのです。
- アパートローンを借り入れていると、相続する負債の額だけ土地の相続税評価額を減じることができるので、「ローンを組んでアパートを建てると相続税節税になる」と言われるわけです。
しかしながら、アパート経営は一種の不動産投資であることに注意しなければなりません。
「アパートローンは家賃収入で返済できる」と言っても、入居率を維持して収入額を確保し続けられなければ、その他の資産を返済に充てなければならなくなります。実際に、アパートローンの返済ができなくなった結果、最終的に土地を手放さなければならなくなってしまったという方もいらっしゃいます。土地を維持していくため相続税を節税しようとローンを組んでアパートを建てたのに、これでは本末転倒です。
相続税対策としてアパートの建築を検討している方は、建築後の収支計画やアパート管理までよく検討し、メリットだけでなくリスクもあることも理解した上でアパート経営に乗り出しましょう。
適正な建築費でアパートを建てられれば、ローンの借入額を抑えて、安定したアパート経営を長期的に行いやすくなります。
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建築後のアパート経営方法やローンの返済計画について相談しながら、ご自身に合った無理のない建築プランを見つけましょう。
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アパートの建築にかかる費用について知りたい方は、以下の記事をご参考にしてください。
アパート建築が節税になる仕組みや、いくら節税になるのか詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
アパートローンを相続(名義変更)する方法
アパートローンの残っているアパートを相続するときは、借り入れているローンの名義変更を行わなければなりません。
アパートローンの名義変更は、以下の3つのステップで進めます。
- アパートローンの連帯保証人を確認する
- 金融機関の審査を受けて債務の引継ぎをする
- 債務者変更登記申請を行う
それぞれ詳しく見ていきましょう。
アパートローンの連帯保証人を確認する
アパートローンが残っているアパートの相続が発生したら、まずはアパートローンの連帯保証人を改めて確認しましょう。
アパートローンの契約者の死亡時は、連帯保証人になっている方がアパートローンを相続するのが原則です。
金融機関は、アパートローンの契約者の死亡後も連帯保証人がローンとアパートを相続し、家賃収入から返済を続けることを前提として、アパートローンの融資を審査しているからです。
そのため、遺産分割協議を行って相続する場合、ローンの残っているアパートそのものも、連帯保証人が相続するように遺産分割します。
なお、アパートローンの連帯保証人がおらず、被相続人が団信にも加入していなかった場合は、相続人全員が法定相続分に従ってローンを相続することになります。
基本的には、返済能力のある相続人がアパートを相続し、アパートローンの返済義務も引き受ける形で遺産分割することになります。
金融機関の審査を受けて債務の引継ぎをする
アパートローンの返済とアパート経営を引き継ぐ相続人が確定したら、金融機関の審査を受けて債務の引継ぎをします。
原則として、金融機関の承諾がなければ、アパートローンの名義を変更することはできません。
金融機関は、アパート経営の収益性や相続予定の連帯保証人の属性・年収等から、ローンの返済能力を改めて審査します。
審査を経てローンの相続が承諾されると、金融機関から必要な書類を受け取って「債務引受」の契約を交わします。これによって、被相続人から相続人にアパートローンの返済義務が引き継がれます。
審査の結果、たとえば、家賃収入のみで返済を継続できる見込みが少なく、連帯保証人の年収や資産状況を鑑みても不十分であると判断されたときは、金融機関から追加で連帯保証人の設定を求められることがあります。
- ご自身が連帯保証人となっている場合には、相続予定のアパートの経営状況やご自身の資産状況を確認し、必要であれば融資元の金融機関に相談しておくと安心です。
債務者変更登記申請を行う
債務引受の後は、「債務者変更登記申請」を行います。
基本的には司法書士に手続きを依頼して、アパートの管轄の法務局に必要書類を提出することで、登記申請を行います。司法書士は金融機関紹介の司法書士に依頼するか、ご自身で個別に司法書士に依頼することも可能です。
なお、債務者変更登記の申請前に、アパートの相続登記を済ませておかなければなりません。
アパートの相続登記がまだの場合は、相続登記と債務者変更登記を合わせて司法書士に依頼すると、スムーズに手続きを進められます。
アパートそのものの相続方法については、以下の記事をご覧ください。
アパートローンの相続で事前にやっておくべき準備
アパートローンの相続は、金融機関の審査を得る必要があるため、時間がかかります。
この章では、アパートローンを含めた不動産の相続を滞りなく進めるために、事前に準備しておくとよいことを3つご紹介します。
遺言状を作成してもらう
アパートの所有者(被相続人)や相続人と話し合い、誰がどの遺産を相続するのか取り決めた遺言状を作成しておくと相続がスムーズです。
アパートの収益性や連帯保証人の属性についても相談しておけば、アパートローンの名義変更ができないという事態も回避できます。
生前に相続について話合うことは気が引けることもあると思いますが、相続する段階で話がまとまらないとトラブルに発展する可能性が大きいです。そのため、相続について少しでも話し合っておくことと安心です。
家賃収入が入る口座とローン返済口座をまとめる
家賃収入が入る口座とローン返済口座が別々である場合、これらを一つにまとめておくと良いです。
アパートの所有者が亡くなった段階から、所有者が管理していた口座は全て凍結されます。そのため、入居者から家賃を振り込むことができずその入金もできなくなります。
つまり、口座が凍結されるとローン返済を家賃収入から充てることができず、相続人がその負担を行う必要性が出てくるのです。相続が発生する段階となっても、アパートローンの返済は猶予されません。
ただし、家賃の入金とその支払いのみに限り取引をできるよう口座凍結を解除することができます。目的を絞って口座凍結を解除するには、一つの口座で家賃が入る講座とローンの支払いを行えるようにする必要があるので、あらかじめ一つにまとめておくことがおすすめです。
あらかじめ金融機関に相談する
アパートローンの相続を考える段階になったら、余裕をもって金融機関に相談しておくと安心です。
現在のアパート経営の状況や連帯保証人の属性などについて相談することで、アパートローンの名義変更ができそうかどうかある程度分かるようになります。
アパートローンの名義変更を行う際も、事前に相談をしておけばその手続きについてスムーズにいくことも期待できます。
相続した土地に合った活用は何か、収益を上げることができるのか判断することは簡単ではありません。
そのため、相続によってアパートや土地を所有することになる予定の方は、一度その土地の活用方法について情報収集をしておくと良いでしょう。
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土地活用プランでは、活用方法はもちろんその収益性などについての情報も確認することができます。
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活用事例:木造重層アパート「グレイスペア」

アパート経営を相続するか迷ったら
アパートローンを相続すると、ローンの返済義務を負わなければなりませんが、引き継いだアパートから毎月家賃収入を得ることができます。
しかしながら、アパート経営を継続するためには、費用や手間もかかります。そのため、ご自身でアパート経営を引き継ぐかどうかはしっかりと検討する必要があるでしょう。
アパート経営を相続するかどうかの判断基準
まずは以下の3つの観点から、アパートの経営を相続するべきかを考えてみましょう。
- 自身の運営力
- 現在の空室率
- 現在の築年数
自身の運営力
アパート経営による不動産所得は「不労所得」と言われたりもしますが、本当に何もせずに収益を上げられるわけではありません。
特に、相続するアパートは既にある程度築年数が経っていることが多く、部屋を入居者で埋めるためには、工夫や対策が必要です。
空室が増えると、その分収入が得られなくなり、利益どころかローンの返済もままならなくなってしまいます。
サラリーマンの傍らで副業としてアパート経営を行う予定の方は、賃貸経営に関する情報収集や、収支状況の把握などにかける時間と労力を捻出できるかを現実的に考える必要があります。
時には予期せぬ修繕が発生して、大きな費用がかかることもあります。ご自身の資産状況についても確認しておきましょう。
現在の空室率
アパートの総部屋数に対し、空室がどれくらいあるかを表す割合を「空室率」といいます。アパートの空室率が高ければ高いほど、家賃収入は減少します。
アパート経営にはローンの返済だけでなく、毎年の固定資産税、火災保険料、管理を委託する場合は管理委託費など様々な費用がかかりますが、これらの費用はアパートの空室率に関係なく決まった金額を支払わなければなりません。
そのため、空室率が一定以上になると、アパート経営の利益はゼロになるどころか、マイナスにもなってしまいます。
アパートの状態や築年数、ローンの返済状況によって、利益が出るか損失が出るかの損益分岐点となる空室率は変わってきます。相続予定のアパートの損益分岐点は事前に把握しておくことが大切です。
現在の築年数
空室率は一般的に、築年数の古いアパートほど高くなっていく傾向にあります。入居者が集まりにくくなると家賃を下げる必要があるため、アパート経営の収入も下がっていきます。収支計画を立てる場合には、家賃を減額した場合のシミュレーションも行っておきましょう。
また築年数が古くなるほど、入退去時の原状回復以外にも、外壁修繕や設備の交換などの大きな修繕の費用がかさんでいきます。1回の修繕で100万円以上かかることも珍しくないため、出費に備えて資金を貯めておく必要があります。
なお、相続したアパートを経営する場合は、木造であれば目安として築30年になったら建替えも検討してみましょう。修繕と家賃の減額をしながら経営し続けるよりも、収支を改善できる可能性があります。
被相続人が経営しているアパートの相続については、以下の記事もご参考になります。
経営継続が難しい場合は売却という選択肢もある
もしも、相続人がアパート経営を継続することが困難な場合は、アパートを売却するという選択肢もあります。
「オーナーチェンジ」による売却であれば、入居者がいる状態でもそのままアパートを売却できます。
注意点として、アパートの売却は自宅の売却とは異なり、アパートの収益性によって売却価格の相場が決まります。入居率によっては思うような価格で売却できず、ローンの完済に自己資金を充てなければならないこともあります。
また、相続人が複数いる場合は、全員の同意を得なければ不動産の売却はできません。
土地ごと手放すことになってしまいますが、アパート経営による赤字が重くのしかかってしまう恐れがある場合は、早めの決断が相続人の生活を守ることにもつながります。
アパートローンの相続に備えて準備しておこう
アパートローンは相続対象になることをご紹介しました。また、ローンなどマイナスの遺産の場合は現金や不動産の価値と相殺して相続税を計算することになります。
しかし、アパートローンの名義変更は状況によって難航する可能性もあるので注意が必要です。
アパートローンが残っている状態で相続が発生しそうな場合は、連帯保証人やアパート経営の状況について確認しておき、スムーズに相続できるよう準備しておきましょう。