アパート取り壊し立ち退き料相場|老朽化理由だと相場が上がる大家都合のケースとは

築40年を超えたアパートを取り壊して建替えたい。そう考え始めた大家(オーナー)の方が、最初につまずくのが立ち退き料です。「アパート取り壊し立ち退き料相場」と検索しても、出てくるのは「家賃の6ヶ月分程度」という一行だけです。8戸なら総額いくら用意すべきなのかが見えてきません。

しかも、老朽化を理由にした取り壊しは、大家側の都合による立ち退きとして扱われます。家賃の6ヶ月分で足りるのか、それでは全く足りないのか。そこが分からないまま入居者に通知を出してしまい、交渉が半年以上こじれてしまうケースもあります。実際に入居者から拒否された経験のあるオーナー194人への調査では、拒否から合意までに4〜6ヶ月かかった方が34%、7ヶ月以上かかった方が45%という結果でした。

金額が読めないまま動けなくなるのは無理のないことです。立ち退き料には法律で定められた計算式がなく、同じ築年数・同じ家賃の物件でも、示し方ひとつで最終金額が2倍近く変わってしまうからです。実際、イエウール土地活用に直近2年間で寄せられた老朽化アパートの取り壊し・建替え相談のうち、立ち退き料の金額が確認できた約100件を集計すると、1戸あたりの支払額は45万円から210万円まで4倍以上の幅がありました。

この記事では、大家が「支払う側」として知っておくべき立ち退き料の相場を、老朽化度合い×家賃水準のケース別早見表で示します。あわせて、老朽化だけを理由にすると相場が上がってしまう仕組みと、拒否されたときのスケジュールへの影響も整理します。最後に、立ち退き料・解体費・建築費を合算した建替えの総費用感まで示します。読み終えたときには、自分の物件で用意すべき金額の目安と、建替えを進めるかどうかの一次判断の材料が手元に残るはずです。

埼玉県川口市(郊外)在住の60代・男性(2026年5月・イエウール土地活用へのご相談より)

「父から相続した木造アパートが築43年で、そろそろ建替えたいと考えています。入居者は8戸中6戸。立ち退き料は家賃6ヶ月分と聞いていたので1戸40万円くらいかと思っていたのですが、知り合いの大家に話したら『それでは絶対に揉める』と言われました。結局いくら用意しておけばいいのでしょうか。」

結論から言えば、立ち退き料は「家賃の何ヶ月分」という単一の目安では決まりません。同じ家賃6万円のアパートでも、1戸あたり50万円で収まるケースと、130万円まで膨らむケースが実際に併存しています。まずは自分の物件がどのレンジに入るのかを、早見表で確認してみてください。

目次
この記事を監修した人
石川 龍明
監修 石川 龍明(いしかわ りゅうめい)

株式会社横濱快適住環境研究所 代表取締役

土地活用プランナー 宅地建物取引士 公認 不動産コンサルティングマスター
20年以上
業界経験
444件以上
コンサル実績
専門領域
土地活用・不動産コンサルティング 賃貸住宅・戸建て経営 相続税・節税対策 建築プロデュース・差別化戦略 経営者・地主向けセミナー

20年以上にわたり不動産・建築業界で活躍する土地活用のエキスパート。地主や不動産オーナー向けに、長期的に収益を生み出す独自の賃貸経営や節税対策、差別化戦略を提唱。444件以上のコンサルティング実績と分かりやすい解説で、多くのオーナーから絶大な信頼を得ています。

アパート取り壊し立ち退き料相場は「家賃6ヶ月分」だけで判断すると痛い目を見る理由

立ち退き料に法律上の計算式はありません。借地借家法第28条は、大家からの解約に「正当事由」が必要だと定めているだけで、金額の決め方までは書かれていません。正当事由とは、大家が契約を終わらせたいと言える正当な理由のことです。立ち退き料は、その正当事由が足りない部分を金銭で補うためのお金だと考えると理解しやすくなります。

だからこそ、金額は「家賃の何ヶ月分」から逆算するのではなく、入居者が引っ越すために実際に必要となる費用を積み上げて決まります。ここを押さえておかないと、通知の段階で提示した金額が実費にも届いておらず、入居者から即座に拒否されるという展開になります。

▼立ち退き料の主な構成要素(家賃6万円・単身世帯のモデルケース)

構成要素 金額の目安 金額が動く条件
引越実費(単身・同一市内) 6〜12万円 荷物量・繁忙期(3月・9月)は1.5倍前後
新居の初期費用(敷金・礼金・仲介手数料) 25〜40万円 新居の家賃水準に連動。ここが最大の項目
家賃差額の補填(新旧家賃の差額×2年分が目安) 12〜36万円 現在の家賃と転居先の家賃との差額が大きいほど増える
迷惑料・慰謝料 10〜30万円 居住年数・高齢・要介護などの事情で増える
造作買取・設備の残存価値 0〜20万円 入居者が設置した設備がある場合のみ

※上記は2026年時点の首都圏近郊における賃貸初期費用・引越料金の市況を反映した積み上げ試算です。実際の金額は入居者の世帯構成、荷物量、転居先の家賃水準、居住年数により大きく変動します。※「家賃差額の補填」は、現在の家賃そのものを2年分支払うという意味ではなく、転居先の家賃相場と現在の家賃の差額分を2年分(24ヶ月)補償するという考え方です。たとえば現在の家賃6万円に対し転居先の相場が6.5万円前後であれば、差額5,000円×24ヶ月=12万円程度、相場が7.5万円前後まで上がる場合は差額1.5万円×24ヶ月=36万円程度になります。

この表を家賃6万円の物件で合計すると、下限でも53万円、上限では138万円になります。家賃6ヶ月分は36万円ですから、下限にすら届いていません。ここが「家賃6ヶ月分」という目安の一番危ない部分です。多くの大家の方は、6ヶ月分を上限だと受け取ってしまいますが、実務では下限にも足りない水準になっています。

一方で、立ち退き料を支払わずに済むケースもあります。ここを先に確認しておかないと、払う必要のない部屋にまで予算を組んでしまいます。まず、入居者から自発的に退去の申し出があった場合は、通常の解約として扱われるため立ち退き料は発生しません。次に、定期借家契約に切り替えてある区画は、期間の満了で契約が終わるため補償の対象になりません。さらに、家賃の滞納が続いている入居者については、契約違反として解除できる場合があり、立ち退き料の対象から外れることがあります。

実際の相談では、8戸のうち2戸から3戸がこのいずれかに当てはまることが珍しくありません。直近2年間にイエウール土地活用へ寄せられた老朽化アパートの取り壊し・建替え相談のうち、立ち退き料の金額が確認できた約100件を見ても、通知の前に入居者名簿を区画ごとに仕分けた方では、交渉が必要な戸数が当初の想定より2割前後少なくなっています。予算を組む前に、全戸を交渉対象と決めつけずに区画ごとに仕分けることが最初の一歩になります。

イエウール担当者
イエウール
担当者

6ヶ月分が下限にも届かないのですね。では最初にいくらで提示すればよいのでしょうか。

提示額を決めるときは、まず入居者ごとに上の5項目を実額で埋めてみることです。世帯構成と居住年数が分かれば、金額はかなり具体的に見積もれます。逆に、全戸一律で「家賃6ヶ月分」と決めてしまうと、長く住んでいる入居者ほど不足感を強く持ち、交渉の入口でつまずきます。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私が相談を受ける際は、通知を出す前に入居者名簿へ2列だけ追記してもらいます。1列目は居住年数、2列目は世帯人数です。この2つで新居初期費用と迷惑料の水準がほぼ決まるため、居住年数15年以上の方には迷惑料を20万円以上、単身以外の世帯には引越実費を12万円以上と、先に上乗せ枠を確保するようお伝えしています。」

ここまでは積み上げの理屈の話です。では、実際に取り壊しを終えた大家はいくら払っているのでしょうか。理屈だけでは「うちは揉めないかもしれない」と考えたくなるため、実際の分布を確認しておく必要があります。

調査結果

取り壊しが完了した大家が支払った立ち退き料が家賃の何ヶ月分だったかの分布

38% 家賃7〜12 ヶ月分相当 38% 家賃7〜12 ヶ月分相当 27% 家賃13〜24 ヶ月分相当 23% 家賃6ヶ月分 以下 12% 家賃25ヶ月分 以上

※出典:イエウール土地活用(調査主体:イエウール土地活用編集部)が、インターネットリサーチを専業とする大手調査会社(専門調査機関)に委託して実施した独自アンケート調査。調査手法はスクリーニング設問で条件該当者を抽出したうえでのインターネット調査(各項目単一回答)、実施時期は2026年3月上旬〜中旬、有効回答数は412人。対象は、直近5年以内に老朽化を理由とするアパート・賃貸住宅の取り壊しを完了し、入居者へ立ち退き料を支払った個人オーナー。「取り壊し完了後のオーナー」という条件は該当者が少なく、イエウール土地活用の相談記録のみでは十分なサンプル数を確保できないため、外部の調査会社に委託したアンケート調査で補完しています。回答の内訳は「家賃7〜12ヶ月分相当」38%、「家賃13〜24ヶ月分相当」27%、「家賃6ヶ月分以下」23%、「家賃25ヶ月分以上」12%。1戸あたり支払額を退去時家賃で割った値を集計し、外れ値(上位・下位5%)は除外している。

【調査結果】家賃6ヶ月分以下で収まったのは4戸に1戸未満

イエウール土地活用が大手調査会社(専門調査機関)に委託して2026年3月に実施した独自アンケート調査(有効回答412人)では、実際に支払われた立ち退き料が家賃6ヶ月分以下だったケースは23%にとどまるという結果が得られています。最も多かったのは家賃7〜12ヶ月分相当の38%で、13〜24ヶ月分相当まで含めると65%が6ヶ月分を超えていました。

※出典:イエウール土地活用(調査主体:イエウール土地活用編集部)が、インターネットリサーチを専業とする大手調査会社(専門調査機関)に委託して実施した独自アンケート調査。調査手法はスクリーニング設問で条件該当者を抽出したうえでのインターネット調査(各項目単一回答)、実施時期は2026年3月上旬〜中旬、有効回答数は412人。対象は直近5年以内に老朽化を理由とするアパートの取り壊しを完了した個人オーナー。「取り壊し完了後のオーナー」は該当者が少なく相談記録のみでは十分なサンプル数を確保できないため、外部の調査会社に委託したアンケート調査で補完しています。回答の内訳は「家賃7〜12ヶ月分相当」38%、「家賃13〜24ヶ月分相当」27%、「家賃6ヶ月分以下」23%、「家賃25ヶ月分以上」12%。

本記事で用いた独自調査の実施概要

調査主体イエウール土地活用 編集部(運営:株式会社Speee)
実施機関インターネットリサーチを専業とする大手調査会社(専門調査機関)に委託して実施(社名は調査会社との取り決めにより非公開)
調査手法調査会社の保有モニターに対するスクリーニング設問で条件該当者を抽出したうえでの、インターネットによる本調査(各項目単一回答)
実施時期2026年3月上旬〜中旬
対象条件と
有効回答数
①直近5年以内に老朽化を理由とするアパート・賃貸住宅の取り壊しを完了し、入居者へ立ち退き料を支払った個人オーナー:412人/②同期間に取り壊しに伴う立ち退き交渉を行い、通知時の理由を「建物の老朽化のみ」と回答した個人オーナー:268人/③同期間に立ち退き交渉で入居者から明確に拒否された経験のある個人オーナー:194人
集計方法金額に関する設問は1戸あたり支払額(総支払額÷実際に立ち退いた戸数)を用い、外れ値(上位・下位5%)を除外して集計。構成比は小数第1位を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合があります
委託理由「取り壊し完了後のオーナー」は該当者が少なく、イエウール土地活用の相談記録のみでは十分なサンプル数を確保できないため、外部の専門調査機関に委託した調査で補完しています

※本調査の設問文・単純集計表は、報道・研究目的での照会に応じてイエウール土地活用の相談窓口より提供しています。数値を引用される場合は出典として本記事URLの明記をお願いします。

イエウール担当者
イエウール
担当者

同じ「取り壊し」なのに、6ヶ月分の人と24ヶ月分の人がいるのはなぜでしょうか。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私はこの差を『時間の値段』だと考えています。立ち退き料は補償の積み上げで決まりますが、交渉が長引くと、そこに時間を買い戻すための上乗せが乗ってきます。最初に低い金額で提示し、拒否されて2回3回と上げていくと、入居者側は『まだ上がる』と学習します。すると積み上げの実額とは無関係に、6ヶ月分が12ヶ月分、18ヶ月分へと伸びていきます。24ヶ月分を超えるケースの大半は、金額の性質ではなく交渉の進め方が原因です。」

独自知見|1回目の提示額は「実費+2割」で作る

では、最初の提示額はどう組み立てるのか。イエウール土地活用の相談窓口で監修者の石川氏が下限としてお伝えしているのが「実費+2割」という考え方です。手順は3つです。

  1. 入居者ごとに引越実費と新居初期費用を、実際の賃貸サイトに掲載されている物件で見積もる
  2. その合計に家賃差額2年分を足す
  3. 合計額の2割を交渉余地として上に積み、その金額を1回目の提示に使う

値切り前提の低い金額から始めないことが、結果的に総額を抑える一番確実な方法になります。上の分布で家賃13〜24ヶ月分相当まで膨らんだ27%は、この逆の進め方をした結果として現れた数字です。

この考え方を実際に体験した大家の事例を見てみましょう。このケースで確認してほしいのは、最初の提示額を低く設定したことで、最終的にいくら増えてしまったのかという点です。

事例①|千葉県船橋市・木造アパート6戸・築38年(最初の提示額を家賃6ヶ月分にしたケース)
項目 詳細
物件概要千葉県船橋市/木造2階建て6戸(1K)/築38年/家賃5.8万円/駅徒歩12分/退去時入居5戸(うち居住20年以上が2世帯)
初期費用(当初の想定)立ち退き料 1戸35万円(家賃6ヶ月分)×5戸=175万円を予算計上
用意していた資金自己資金200万円(立ち退き料枠)。追加原資は建替えローンに含められず、自己資金からの追加拠出となった
行動(プロセス)①1ヶ月目:全戸一律35万円で通知 ②2ヶ月目:5戸中4戸が拒否、居住22年の世帯から「引越先の初期費用にも足りない」と指摘 ③4ヶ月目:60万円へ増額提示、2戸のみ合意 ④7ヶ月目:残3戸に個別で新居初期費用の実額を提示し直し、平均105万円で合意 ⑤9ヶ月目:全戸退去完了
結果最終支払額 5戸合計461万円(1戸平均92万円)。当初予算175万円に対し286万円の追加。着工は当初予定より6ヶ月遅れ
内訳(5戸合計) 金額
引越実費・新居初期費用の実額分231万円
家賃差額補填(2年分)96万円
迷惑料(居住20年以上の2世帯に加算)74万円
交渉長期化に伴う上乗せ分60万円
合計461万円
専門家のアドバイスどおりに動いた場合との差
実費を先に見積もり「実費+2割」で1回目を提示した場合、この物件の提示額は1戸あたり約82万円、5戸で410万円と試算されます。実際の支払額461万円との差は51万円で、内訳のうち「交渉長期化に伴う上乗せ分60万円」の大部分が発生せずに済んだ計算になります。金額差以上に大きかったのは6ヶ月の着工遅れで、空室化した部屋の逸失家賃を含めると影響はさらに広がりました。

※本ページの体験談は、2026年5月時点までに取り壊し・建替えを完了されたイエウール土地活用のご成約者様を対象に、運営事務局が2026年にメールにてアンケートを実施し、ご回答いただいた内容をもとに作成しています。費用等の数値はご本人の回答をそのまま掲載しており、個人が特定できないよう氏名・住所等の情報は非公開としています。

この事例から読み取れるのは、立ち退き料は「値切って抑えるお金」ではなく「初回の精度で総額が決まるお金」だという点です。1回目の提示が実費に届いていないと、その後の増額はすべて交渉の遅れという形で跳ね返ってきます。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「この事例で決定的だったのは、居住22年の世帯を全戸一律の金額に含めてしまったことです。私は交渉順序を必ず『居住年数が最も長い世帯から』に変えてもらいます。最も条件の厳しい世帯と先に合意できれば、その金額が全戸の上限になり、他の世帯はその範囲内で収まります。逆に短期入居者から合意していくと、後半の世帯に上限がなくなります。」

ここは多くの方が逆に思い込んでいる点です。家賃が安いアパートなら立ち退き料も安く済む、と考えてしまいます。総額で見ればその通りですが、「家賃の何ヶ月分」という倍率で見ると、家賃が安い物件のほうが大きくなります。

この構造は、家賃を下げて空室を埋めてきた築古アパートで特に問題になります。家賃を1万円下げた分だけ、立ち退き料の倍率は上がっていきます。家賃を下げてしのぐという判断は、将来の取り壊し費用を先送りで増やす行為でもあります。この視点を持っておくと、修繕か建替えかの判断がしやすくなります。

直近2年間にイエウール土地活用へ寄せられた老朽化アパートの取り壊し・建替え相談のうち、立ち退き料の金額が確認できた約100件を集計すると、築35年を超える物件では現在の家賃が周辺相場を1万円以上下回っているケースが半数以上を占めています。この場合、家賃差額の補填が2年分で24万円以上になり、それだけで家賃6ヶ月分に近い金額が乗ります。1社の見積もりだけを見ていると、この部分が抜け落ちたまま予算を組んでしまいがちです。

逆に言えば、家賃が相場並みに維持できている物件は、立ち退き料の総額を抑えやすくなります。周辺の同スペック物件の家賃をあらかじめ調べておくことが、そのまま立ち退き料の見積もりにつながります。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「取り壊しを数年以内に考えているなら、私は空室が出た部屋の募集家賃を下げないようお伝えしています。目安として、周辺相場との差を5,000円以内に収めることです。差が1万円あると家賃差額補填が2年分で24万円増え、8戸なら約190万円の違いになります。空室のまま数ヶ月待つより、将来の立ち退き料を抑えるほうが金額としては大きくなります。」

【ケース別早見表】老朽化度合い×家賃水準で見るアパート取り壊し立ち退き料相場

老朽化度合い×家賃水準で見る1戸あたりの相場レンジ

立ち退き料の金額を実務上左右するのは、家賃水準と老朽化度合いの2つです。家賃水準は補償額そのものの大きさを決め、老朽化度合いは入居者の居住年数と正当事由の説明力を左右します。この2つを掛け合わせたのが次の早見表です。自分の物件がどのマスに入るかを確認してみてください。

▼老朽化度合い×家賃水準で見る立ち退き料の相場レンジ(1戸あたり・2026年目安)

1戸あたり家賃 軽度
(築25〜35年・修繕で継続可)
中度
(築35〜45年・大規模修繕が必要)
重度
(築45年超・耐震性に不安)
5万円未満 45〜70万円
(家賃9〜14ヶ月分)
55〜85万円
(家賃11〜17ヶ月分)
65〜100万円
(家賃13〜20ヶ月分)
5〜7万円未満 50〜80万円
(家賃8〜13ヶ月分)
65〜105万円
(家賃11〜18ヶ月分)
80〜125万円
(家賃13〜21ヶ月分)
7〜10万円未満 60〜100万円
(家賃7〜12ヶ月分)
80〜135万円
(家賃9〜16ヶ月分)
100〜165万円
(家賃12〜19ヶ月分)
10万円以上 75〜125万円
(家賃6〜10ヶ月分)
100〜170万円
(家賃8〜14ヶ月分)
125〜210万円
(家賃10〜17ヶ月分)

※黄色のマスは、イエウール土地活用に寄せられる老朽化アパートの取り壊し相談で最も件数が多い帯です。
※算定根拠:直近2年間にイエウール土地活用へ寄せられた老朽化アパートの取り壊し・建替え相談のうち、立ち退き料の金額が確認できた約100件をもとに集計しています。家賃帯・老朽化度合いの各区分について、1戸あたり支払額(または合意額)の下位25%値を下限、上位25%値を上限としてレンジ化し、外れ値(上位・下位5%)は除外しています。あわせて、イエウール土地活用が調査会社に委託して実施したインターネットアンケート調査(回答者412人・2026年3月実施)の実支払額分布と突き合わせ、乖離が生じた区分は調査値側に寄せて補正しています。
※本表は目安であり、入居者の世帯構成・居住年数・健康状態、周辺の家賃相場、交渉の進め方などの個別事情により変動します。金額を確約するものではありません。

表を見て意外に感じた方が多いのではないでしょうか。老朽化が進んでいるほど、金額のレンジが下がるどころか上がっています。「建物が危ないのだから正当事由は強いはずで、立ち退き料は安く済む」という感覚とは逆の結果です。

理由は2つあります。1つは、築年数が長い建物には居住年数の長い入居者が集まっており、迷惑料・生活再建の補償が厚くなることです。もう1つは、老朽化が進んだ物件ほど家賃を下げて運用してきた経緯があり、周辺相場との家賃差額が大きくなっていることです。老朽化は正当事由を強める要素である一方で、補償額を押し上げる要素にもなります。

もう一点、早見表の使い方で気をつけたいことがあります。これは1戸あたりの金額なので、総額は戸数を掛けて考える必要があります。家賃6万円・築43年・8戸のアパートなら、65万円×8戸で520万円から、105万円×8戸で840万円が総額のレンジです。この320万円の幅が、そのまま建替え計画の不確実性になります。

イエウール担当者

イエウール
担当者

レンジの幅が320万円もあると、予算はどちらに寄せて組むべきか迷ってしまいますね。

石川 龍明

専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私は必ず上限側で予算を組み、下限との差額を交渉予備費として別枠に置くようお伝えしています。手順は、上限額を建替え全体の資金計画に入れ、実際の合意額が下限に近づいた分だけ予備費を外構や設備のグレードに振り替えることです。下限で組むと、1戸増額しただけで資金計画の組み直しが必要になり、その間に交渉が止まります。」

ただ、この上限・下限のどちら側に着地するかは、早見表のマスだけでは決まりません。次の章で、レンジの中で上振れ・下振れを分ける3つの条件と、自分の物件に当てはめて総額を出す手順を確認してください。

早見表のレンジから上振れ・下振れする3つの条件

同じマスに入る物件でも、下限で収まる大家と上限を超える大家がいます。その差を生む条件は、実務上ほぼ3つに絞られます。自分に当てはまるかどうかを確認しながら読み進めてください。

  1. 居住20年以上の世帯がいるか
    該当する場合、その世帯だけで1戸あたり30〜60万円の上振れになります。転居先探しの難易度が高く、高齢の入居者では保証会社の審査が通りにくいという事情も重なります。
  2. 店舗・事務所として使われている区画があるか
    該当する場合、営業補償や顧客が離れることへの補償が加わり、住居部分の2〜4倍になります。1階が美容室や整体院になっている木造アパートでは、この1区画だけで総額が数百万円動きます。
  3. 現在の家賃が周辺相場を1万円以上下回っているか
    該当する場合、家賃差額の補填が2年分で24万円以上になり、1戸あたり20〜35万円の上振れ要因になります。

逆に、下振れの条件はもっとシンプルです。定期借家契約(期間が満了すると更新なく終わる契約)に切り替えてある区画、入居2年未満の単身世帯、すでに転居を検討している入居者。この3つに当てはまる区画は、早見表の下限か、それを下回る金額で合意できることがあります。

もう一つ、早見表の金額とは別に確認しておきたいのが名義です。上記の約100件の相談記録では、相続で受け継いだ物件が大半を占め、そのうち名義が兄弟や親族の共有になっているケースが一定数含まれています。共有名義の建物を取り壊す場合、共有者全員の同意が必要になります。同意が取れないまま入居者に通知を出すと、後から「その通知は無効ではないか」という話になり、交渉をやり直すことになります。

相続の登記が終わっていない場合も同じです。名義が亡くなった親のままだと、解体の契約も建替えの融資も進められません。名義の整理には数ヶ月かかることがあるため、立ち退き交渉と並行して進めるのが現実的です。借地の上にアパートが建っている場合は、さらに地主の承諾が必要になります。この3つのどれかに当てはまる方は、金額の検討より先に名義と権利関係の確認から始めてください。

ここで大家の方が一番知りたいのは、では自分の物件は結局いくらの帯に着地するのか、という点です。実際に取り壊しを終えた方の支払額の分布を見ておきましょう。

調査結果

取り壊しが完了した大家が支払った立ち退き料の1戸あたり金額の分布

41% 1戸50〜100 万円未満 41% 1戸50〜100 万円未満 31% 1戸100〜200 万円未満 14% 1戸50万円 未満 14% 1戸200万円 以上

※出典:イエウール土地活用(調査主体:イエウール土地活用編集部)が、インターネットリサーチを専業とする大手調査会社(専門調査機関)に委託して実施した独自アンケート調査。調査手法はスクリーニング設問で条件該当者を抽出したうえでのインターネット調査(各項目単一回答)、実施時期は2026年3月上旬〜中旬、有効回答数は412人。対象は直近5年以内に老朽化を理由とするアパート・賃貸住宅の取り壊しを完了し、入居者へ立ち退き料を支払った個人オーナー。「取り壊し完了後のオーナー」という条件は該当者が少なく、イエウール土地活用の相談記録のみでは十分なサンプル数を確保できないため、外部の調査会社に委託したアンケート調査で補完しています。回答の内訳は「1戸50〜100万円未満」41%、「1戸100〜200万円未満」31%、「1戸50万円未満」14%、「1戸200万円以上」14%。1戸あたり支払額は総支払額を実際に立ち退いた戸数で割った値。

【調査結果】1戸50〜100万円未満が最多の41%、200万円以上も14%発生

イエウール土地活用が大手調査会社(専門調査機関)に委託して2026年3月に実施した独自アンケート調査(有効回答412人)では、1戸あたりの支払額は50〜100万円未満が41%と最も多いという結果が得られています。一方、200万円以上に達したケースも14%あり、7戸に1戸の割合で早見表の上限を超えています。上振れしたケースには、店舗区画の営業補償が絡んでいるか、居住20年以上の世帯が含まれている傾向がはっきり出ています。

※出典:イエウール土地活用(調査主体:イエウール土地活用編集部)が、インターネットリサーチを専業とする大手調査会社(専門調査機関)に委託して実施した独自アンケート調査。調査手法はスクリーニング設問で条件該当者を抽出したうえでのインターネット調査(各項目単一回答)、実施時期は2026年3月上旬〜中旬、有効回答数は412人。対象は直近5年以内に老朽化を理由とするアパートの取り壊しを完了した個人オーナー。「取り壊し完了後のオーナー」は該当者が少なく相談記録のみでは十分なサンプル数を確保できないため、外部の調査会社に委託したアンケート調査で補完しています。回答の内訳は「1戸50〜100万円未満」41%、「1戸100〜200万円未満」31%、「1戸50万円未満」14%、「1戸200万円以上」14%。

イエウール担当者
イエウール
担当者

200万円以上になる14%と、50万円未満で済む14%。この差はどこから来るのでしょうか。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私の見方では、この差は物件の条件よりも、退去の時間軸を大家が握れているかで決まります。自然退去を待てる期間が残っていれば、空いた部屋は募集を止めるだけで済み、立ち退き料はゼロです。逆に着工日が先に決まっていると、全戸を同じ期限に揃えなければならず、居住年数の長い世帯にも短期入居者と同じ期限を求めることになります。この期限のしわ寄せが200万円超の主因です。」

イエウール担当者
イエウール
担当者

時間軸を握るというのは、具体的には何から始めればよいのでしょうか。

石川 龍明
専門家
アドバイス

「私は建替えを決める前に、募集停止だけ先に始めるようお伝えしています。順序は3段階です。第1に、退去が出た部屋の再募集を止めて空室のまま置く。第2に、残った入居者の居住年数を確認し、長い順に並べる。第3に、建築プランの検討と並行して、期限を切らない形で意向を聞き始める。この順序なら、着工日を決める時点で交渉相手が2〜3戸まで減っており、1戸あたりの上乗せを抑えられます。」

この順序を実際に守った大家の事例を紹介します。このケースで確認してほしいのは、募集停止をいつ始めたかと、最終的な1戸あたり金額が早見表のどこに着地したかという点です。

事例②|埼玉県川口市・木造アパート8戸・築40年(募集停止を先に始めたケース)
項目 詳細
物件概要 埼玉県川口市/木造2階建て8戸(1K・2K混在)/築40年/家賃7.2万円/敷地98坪/駅徒歩9分/募集停止開始時の入居7戸
初期費用 立ち退き料 4戸合計312万円(1戸平均78万円)。募集停止期間中の逸失家賃177万円を含めた実質負担は489万円
自己資金 立ち退き料枠として自己資金600万円を確保。早見表の上限105万円×7戸で735万円になるところ、自然退去の発生を織り込んで600万円に設定した
行動(プロセス) ①1ヶ月目:退去済み1戸の再募集を停止 ②3ヶ月目:さらに1戸が自然退去、募集停止 ③4ヶ月目:残6戸の居住年数を確認し、長い順(19年・14年・11年)から意向確認を開始 ④8ヶ月目:自然退去がさらに2戸発生し、交渉対象が4戸に減少 ⑤10ヶ月目:4戸に個別で実費積み上げの金額を提示し、平均78万円で全戸合意 ⑥14ヶ月目:全戸退去完了、解体着工
結果 1戸平均78万円は早見表(家賃7〜10万円未満×中度=80〜135万円)の下限を下回る水準。当初枠600万円に対し288万円を残し、外構と宅配ボックスの追加に振り替えた
負担の内訳 金額
立ち退き料(4戸) 312万円
募集停止による逸失家賃(14ヶ月) 177万円
実質負担の合計 489万円
専門家のアドバイスどおりに行動した結果
期限を切らずに募集停止から始めたことで、14ヶ月のうちに3戸が自然退去し、交渉相手が7戸から4戸へ減りました。全7戸を同じ期限で交渉した場合、早見表の中位(1戸105万円)で735万円が必要になる計算です。実質負担489万円との差は246万円で、逸失家賃177万円を負担してもなお有利な結果になっています。

※本ページの体験談は、2026年5月時点までに取り壊し・建替えを完了されたイエウール土地活用のご成約者様を対象に、運営事務局が2026年にメールにてアンケートを実施し、ご回答いただいた内容をもとに作成しています。費用・期間等の数値はご本人の回答をそのまま掲載しており、個人が特定できないよう氏名・住所等の情報は非公開としています。

この事例から読み取れるのは、立ち退き料を抑える最大のレバーは金額交渉ではなく、募集停止を先に始めて交渉相手の数を減らすことだという点です。逸失家賃という負担は増えますが、1戸あたりの上乗せを避けられる効果のほうが大きくなります。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「この事例で参考にしていただきたいのは、募集停止の判断を12ヶ月前倒しできたことです。私は逸失家賃と立ち退き料の損益分岐を、家賃の月数に換算して比べるようお伝えしています。1戸を空室のまま12ヶ月置く負担は家賃12ヶ月分です。その部屋の立ち退き料が12ヶ月分を超える見込みなら、募集停止が有利という判断になります。早見表で自分のマスの倍率を確認すれば、この判断はその場でできます。」

早見表の見方|自分の物件に当てはめて総額を出す3ステップ

早見表と上振れ・下振れの条件が分かったところで、自分の物件の数字に落とし込んでみましょう。必要なのは電卓と紙だけです。次の3ステップを順に書き出せば、自分の物件で用意すべき立ち退き料の総額が5分で出せます。

  1. ステップ1:早見表のマスを特定する
    1戸あたり家賃(4区分)と老朽化度合い(3区分)を選び、該当するマスの下限と上限を書き出します。例:家賃6万円・築43年なら「65〜105万円」。
  2. ステップ2:交渉対象の戸数を掛ける
    全戸数ではなく、自発的な退去申し出・定期借家契約・家賃滞納に該当する区画を除いた戸数を掛けます。例:交渉対象8戸なら520〜840万円。
  3. ステップ3:上振れ要因を戸単位で加算する
    居住20年以上の世帯は1戸あたり+30〜60万円、店舗・事務所区画は住居部分の2〜4倍、周辺相場より家賃が1万円以上低い区画は1戸あたり+20〜35万円を上限側に足します。
【計算例】家賃6万円・築43年・8戸のうち交渉対象が6戸、そのうち居住20年以上が2世帯の場合。ステップ1で「65〜105万円」、ステップ2で6戸を掛けて390〜630万円、ステップ3で居住20年以上の2世帯分(+30〜60万円×2戸)を上限側に足して、390〜750万円が用意すべき総額の目安になります。

書き出した数字を見るときは、総額の上限側を建替え計画の前提に置いてください。下限側で計画を組むと、1戸増額しただけで資金計画の組み直しが必要になります。上限で組んでおけば、交渉が想定より早く進んだ分を建物のグレードや外構に振り替えられます。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「書き出した金額は、そのまま建築会社との打ち合わせに持ち込んでください。私は相談者に、立ち退き料の上限額を建築会社へ最初に伝えるようお伝えしています。総事業費に立ち退き料が入っていないプランを並べても、返済計画の比較になりません。上限額を先に共有すると、戸数や設備仕様を調整して総額を合わせた提案が返ってきます。」

老朽化だけを理由にすると立ち退き料相場が上がる大家都合のケースとは

老朽化だけでは正当事由として弱いため立ち退き料で埋めることになる

ここが今回の記事で最も伝えたい部分です。老朽化を理由にした取り壊しは、大家の側に立てば当然の判断に見えます。ところが法律の枠組みでは、老朽化そのものが正当事由として認められる場面は限られています。

借地借家法第28条は、正当事由を総合的に判断すると定めています。判断の材料になるのは、建物の現況、大家と入居者それぞれが建物を必要とする事情、これまでの経過などです。つまり「築45年だから」という事実ひとつでは足りません。修繕すればまだ使えると判断される状態であれば、正当事由は弱いままです。

収益性を高めたいという理由は、それ単体では正当事由になりません。ここを誤解したまま「建替えて家賃を上げたいので出てほしい」と説明してしまうと、入居者側は「大家の都合だけの話だ」と受け取ります。正当事由が弱いと相手に伝わった時点から、立ち退き料の交渉は不利になります。

そして立ち退き料の性質を思い出してください。立ち退き料は、正当事由の足りない部分を金銭で補うためのお金です。だからこそ「老朽化だけを理由にする」という進め方は、補うべき部分を自分から広げてしまう選択になります。これが、早見表で老朽化の重度側ほど金額が上がっていた本当の理由です。

実際の交渉では、この差が金額として表に出ます。老朽化のみを理由に通知を出した場合、入居者側から「まだ住める」「修繕で足りるはずだ」という反論が返ってきます。反論に答える材料を大家が持っていないと、金額を積むしか進める手段がなくなります。

なお、正当事由の逐条的な解釈や過去の判例の読み方は、専門性が高く分量も多くなります。本記事では相場と建替え判断に必要な範囲にとどめますので、交渉文書の作り方まで踏み込みたい方は立ち退き料の計算方法と交渉の進め方を詳しく見るをご覧ください。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私が通知文の書き方で必ず直してもらうのは、理由の順序です。老朽化を先頭に書くと、それが唯一の理由に見えます。私は、第1に入居者の安全に関わる具体的な不具合、第2に修繕見積もりの金額と耐用年数の残り、第3に建替えという結論、この順で書くようお伝えしています。順序を変えるだけで、入居者からの反論の量が明らかに減ります。」

正当事由の説明力を上げる3つの資料と、その費用対効果

では、老朽化を理由にする以外に打てる手はあるのでしょうか。あります。正当事由の説明力は、資料の有無で変わります。しかもこの資料にかかる費用は、立ち退き料の差額に比べればごく小さい金額で収まります。

▼正当事由の説明力を上げる資料と費用の目安

資料 取得費用の目安 交渉で果たす役割
耐震診断書(木造2階建て・8戸規模) 20〜40万円 「まだ住める」という反論に、数値(構造評点)で答えられる
大規模修繕の見積書(複数社) 0円(見積もりは無料) 修繕で対応する案が現実的でないことを金額で示せる
建物調査報告書(インスペクション) 10〜20万円 給排水・外壁・基礎の劣化を第三者の記録として残せる

※上記は2026年時点の木造アパート(延床70坪前後)を想定した費用目安です。建物規模・構造・依頼先により変動します。

3点すべてを揃えても30〜60万円です。早見表で見たとおり、立ち退き料は1戸あたり数十万円の幅で動きます。8戸のアパートで1戸あたり25万円の差が出れば、それだけで200万円です。資料代を惜しんで金額で埋める判断は、割に合いません。

ここで、老朽化のみを理由に交渉を進めた大家が、実際にどれくらい増額しているのかを見ておきましょう。

調査結果

老朽化のみを理由に通知した大家の、最終合意額が当初提示額から何倍になったかの分布

38% 当初提示額の 1.5〜2倍に 38% 当初提示額の 1.5〜2倍に 30% 当初提示額の 1.5倍未満に 17% 増額なしで 合意 15% 当初提示額の 2倍以上に

※出典:イエウール土地活用(調査主体:イエウール土地活用編集部)が、インターネットリサーチを専業とする大手調査会社(専門調査機関)に委託して実施した独自アンケート調査。調査手法はスクリーニング設問で条件該当者を抽出したうえでのインターネット調査(各項目単一回答)、実施時期は2026年3月上旬〜中旬、有効回答数は268人。対象は、直近5年以内にアパートの取り壊しに伴う立ち退き交渉を行い、通知時の理由を「建物の老朽化のみ」と回答した個人オーナー。「老朽化のみを理由に通知した」という条件は該当者が限られ、イエウール土地活用の相談記録のみでは十分なサンプル数を確保できないため、外部の調査会社に委託したアンケート調査で補完しています。回答の内訳は「当初提示額の1.5〜2倍に増額」38%、「当初提示額の1.5倍未満に増額」30%、「増額なしで合意」17%、「当初提示額の2倍以上に増額」15%。

【調査結果】老朽化のみを理由にした場合、53%が当初提示額の1.5倍以上になっている

イエウール土地活用が大手調査会社(専門調査機関)に委託して2026年3月に実施した独自アンケート調査(有効回答268人)では、通知時の理由を「建物の老朽化のみ」と説明した大家のうち、最終合意額が当初提示額の1.5倍以上になったケースが53%を占めるという結果が得られています。当初提示額のまま合意できたのは17%にとどまりました。

※出典:イエウール土地活用(調査主体:イエウール土地活用編集部)が、インターネットリサーチを専業とする大手調査会社(専門調査機関)に委託して実施した独自アンケート調査。調査手法はスクリーニング設問で条件該当者を抽出したうえでのインターネット調査(各項目単一回答)、実施時期は2026年3月上旬〜中旬、有効回答数は268人。対象は直近5年以内にアパートの取り壊しに伴う立ち退き交渉を行い、通知時の理由を「建物の老朽化のみ」と回答した個人オーナー。該当者が限られ相談記録のみでは十分なサンプル数を確保できないため、外部の調査会社に委託したアンケート調査で補完しています。回答の内訳は「1.5〜2倍に増額」38%、「1.5倍未満に増額」30%、「増額なしで合意」17%、「2倍以上に増額」15%。

イエウール担当者
イエウール
担当者

増額なしで合意できた17%の方は、何が違っていたのでしょうか。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私の理解では、増額が起きる仕組みは『反論に答えられない状態が続くこと』にあります。老朽化という言葉は主観的で、大家が危ないと感じている度合いと入居者が感じている度合いが一致しません。この認識のずれが埋まらないまま時間が経つと、交渉は金額の話にしかならなくなります。数値や第三者の記録が手元にある方は、ずれを短時間で埋められるため、金額を動かす必要がありません。」

イエウール担当者
イエウール
担当者

認識のずれを埋めるために、具体的にはどの資料からそろえるとよいのでしょうか。

石川 龍明
専門家
アドバイス

「私は順序として、修繕見積もりを一番先に取るようお伝えしています。費用がかからず、しかも交渉での効き方が最も大きいからです。基礎補強・外壁・屋根・給排水をまとめた見積もりが建物価値を上回っていれば、その一枚で修繕案は現実的でないと示せます。次に耐震診断書を取り、構造評点が0.7を下回る数値であれば、通知文に数値を明記します。この2点で、私が見てきた範囲では増額交渉の回数が半分程度に減っています。」

この助言どおりに資料をそろえてから通知を出した大家の事例です。このケースで確認してほしいのは、資料代としていくら使い、その結果として立ち退き料が早見表のどこに収まったかという点です。

事例③|神奈川県相模原市・木造アパート10戸・築45年(資料を先にそろえたケース)
項目 詳細
物件概要 神奈川県相模原市/木造2階建て10戸(1K)/築45年/家賃6.0万円/敷地132坪/バス停徒歩4分/通知時の入居8戸(うち居住20年以上が3世帯)
初期費用 資料取得費42万円(耐震診断28万円+建物調査14万円)。修繕見積もりは3社から無料で取得。立ち退き料は8戸合計648万円(1戸平均81万円)
自己資金 立ち退き料枠1,000万円(早見表の家賃5〜7万円未満×重度=80〜125万円の上限125万円×8戸で1,000万円と設定)。実際の支出は648万円で352万円を残した
行動(プロセス) ①1ヶ月目:3社に大規模修繕の見積もりを依頼、最安でも3,180万円と判明 ②2ヶ月目:耐震診断を実施し構造評点0.42(倒壊の可能性が高い水準)を確認 ③3ヶ月目:不具合の写真・修繕見積額・構造評点を1枚の資料にまとめ、居住年数の長い3世帯から個別に説明 ④5ヶ月目:3世帯と1戸平均98万円で合意 ⑤7ヶ月目:残5戸と1戸平均71万円で合意 ⑥11ヶ月目:全戸退去完了
結果 1戸平均81万円で、早見表(家賃5〜7万円未満×重度=80〜125万円)の下限付近に着地。増額交渉は全戸で1回のみ。着工は当初予定どおり
支出の内訳 金額
耐震診断書 28万円
建物調査報告書 14万円
立ち退き料(8戸) 648万円
合計 690万円
専門家のアドバイスどおりに行動した結果
修繕見積もり3,180万円と構造評点0.42という2つの数字を先に用意したことで、「まだ住める」という反論に対して初回の説明で答えられました。老朽化のみを理由にした場合の中位(当初提示額の1.5〜2倍)に当てはめると、この物件では1戸あたり120万円前後、8戸で960万円まで膨らんだ計算になります。資料代42万円を含めた690万円との差は270万円で、資料代の6倍以上を回収した結果になりました。

※インタビュー実施時期/2026年4月・対象ユーザー層/老朽化アパートの取り壊しを完了した一般の個人オーナー様・接点獲得方法/当メディア独自のアンケート調査、およびオーナーコミュニティを通じた一般公募により、利害関係のない第三者のオーナー様と直接接点を構築・取材方法/Web会議システム(Zoom等)を用いた、編集部による約60分間の1対1のオンライン口頭インタビュー

この事例から読み取れるのは、立ち退き料を抑える投資として最も利回りが高いのは資料代だという点です。42万円の支出で270万円の差を作れた計算になり、他のどの節約手段よりも効率が良い結果になっています。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「この事例で見習っていただきたいのは、資料を1枚にまとめたことです。私は不具合の写真を3点、修繕見積額を1行、構造評点を1行、この構成でA4一枚に収めるようお伝えしています。分厚い報告書をそのまま渡すと読まれません。1枚に収めると入居者が家族に相談しやすくなり、判断が早まります。」

大家都合の退去として扱われると何が変わるか

取り壊しに伴う立ち退きは、法律上「大家都合の退去」として扱われます。この扱いになると、立ち退き料以外にも大家側の負担が発生します。ここを見落として予算を組むと、後から想定外の支出が出てきます。

  • 解約の申し入れは、期間の定めのない契約なら6ヶ月前までに行う必要があります(借地借家法第27条)。定期借家契約の場合は期間満了で終了するため、この制約を受けません。
  • 敷金は原則として全額返還し、原状回復費用の請求も行わないのが実務上の扱いです。8戸で敷金1ヶ月分なら約50万円、原状回復費を請求しない分でさらに数十万円の負担になります。
  • 更新料の返還や、退去月の日割り家賃の免除を求められることも多く、1戸あたり数万円から10万円程度の追加が発生します。

この3つを合計すると、8戸のアパートで100万円前後になります。早見表で見た1戸あたりの金額には含まれていない部分なので、資金計画には別枠で入れておく必要があります。

もう一つ、支払った立ち退き料の税務上の扱いも気になるところです。建替えを前提とした立ち退き料は、原則として新しい建物の取得価額に含めて減価償却する扱いになり、支払った年に全額を経費にできるとは限りません。売却を前提とする場合や、更地にして貸す場合は扱いが変わります。判断が分かれる部分なので、経費として扱える費用の全体像はアパート経営で経費にできる費用で確認し、実際の申告は税理士に相談してください。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私は敷金と原状回復を交渉材料として先に出すようお伝えしています。順序は、金額の話に入る前に『敷金は全額お返しし、室内の補修費もいただきません』と伝えることです。金額としては1戸5万円から10万円ですが、先に譲る姿勢を示せるため、その後の立ち退き料の交渉が1回で終わりやすくなります。後から出すと、値切りの材料として扱われます。」

立ち退きを拒否されたらアパート取り壊しの計画はどうなるか

拒否されても強制的に退去させることはできない

立ち退きを拒否されたとき、大家の側に強制力はありません。鍵を交換する、電気や水道を止める、荷物を運び出すといった行為はいずれも認められていません。実力で退去させれば、逆に損害賠償を請求される立場になります。

最終的な手段は建物明渡請求訴訟です。ただし、訴訟に進んだ場合も裁判所が判断するのは正当事由の有無であり、老朽化のみを理由にした場合は認められない可能性が残ります。前章で見たとおり、正当事由の説明力がそのまま結果に反映されます。

そして訴訟には時間がかかります。第一審で1年から1年半、控訴されればさらに1年前後です。弁護士費用は着手金と報酬を合わせて1戸あたり60万円から120万円が目安になります。訴訟で勝てたとしても、立ち退き料を上乗せして早期に合意したほうが安く済むケースが大半です。

入居者が弁護士を立ててきた場合の対応も押さえておきましょう。相手に代理人がついた時点で、大家が直接交渉することはできなくなります。ここで慌てて金額を上げる必要はありません。代理人がつくと、むしろ交渉の争点が「金額」に整理されるため、決着が早まることもあります。

ただし、大家側も代理人を立てないまま代理人と交渉するのは避けたほうがよいです。ここでもポータルとしての立場が役に立ちます。上記の約100件の相談記録には、交渉が動き出した段階で建替えプランの検討を一度止め、権利関係の整理を先に済ませてから戻ってきたという進め方の案件も含まれています。建築会社1社に相談しているだけだと、計画を止めるという判断そのものが出てきません。

見落としがちなのは、訴訟中も建替えは一切進められないという点です。1戸でも入居者が残っていれば解体はできず、その間に建築費が上がっていくという別の負担も発生します。時間そのものが費用だという感覚を持っておくことが大切です。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私は拒否された時点で、訴訟費用と上乗せ額を紙に並べて比べるようお伝えしています。手順は、第1に弁護士費用の見積もりを取る、第2に訴訟期間中の逸失家賃を月額で計算する、第3にその合計を戸数で割った金額を上乗せの上限として交渉に戻る、という3段階です。この金額を握っていると、感情ではなく数字で判断できます。」

1戸残るだけで発生する追加費用と期間の目安

ここが大家の方に最も知っておいてほしい部分です。立ち退きの費用は、拒否された1戸の立ち退き料だけでは終わりません。すでに退去した部屋が空室のまま止まるため、そこから家賃が入ってこない期間が延びていきます。

家賃6.8万円・8戸のアパートで7戸が退去済み、残り1戸が拒否している状態を考えてみます。合意が6ヶ月遅れると、7戸分の逸失家賃は6.8万円×7戸×6ヶ月で285万円です。拒否している1戸に60万円を上乗せして早期に合意できるなら、差額は225万円になります。

この計算をしないまま「値上げ要求には応じない」と構えてしまう方が少なくありません。立ち退き料は1戸あたりの金額だけを見ると高く感じますが、遅延による逸失家賃と並べると、上乗せしたほうが安いという結論になる場面が多くあります。

では、実際に拒否された大家は、そこからどれくらいの期間で合意に至っているのでしょうか。

調査結果

立ち退きを拒否されてから合意に至るまでに要した期間の分布

34% 拒否から 4〜6ヶ月 34% 拒否から 4〜6ヶ月 29% 拒否から 7〜12ヶ月 21% 拒否から 3ヶ月以内 16% 拒否から 13ヶ月以上

※出典:イエウール土地活用(調査主体:イエウール土地活用編集部)が、インターネットリサーチを専業とする大手調査会社(専門調査機関)に委託して実施した独自アンケート調査。調査手法はスクリーニング設問で条件該当者を抽出したうえでのインターネット調査(各項目単一回答)、実施時期は2026年3月上旬〜中旬、有効回答数は194人。対象は、直近5年以内にアパートの取り壊しに伴う立ち退き交渉で、入居者から明確に拒否された経験のある個人オーナー。「拒否された経験がある」という条件は該当者が限られ、イエウール土地活用の相談記録のみでは十分なサンプル数を確保できないため、外部の調査会社に委託したアンケート調査で補完しています。回答の内訳は「拒否から4〜6ヶ月」34%、「拒否から7〜12ヶ月」29%、「拒否から3ヶ月以内」21%、「拒否から13ヶ月以上」16%。期間は最初に拒否の意思を示された時点から退去の合意書を締結した時点まで。

【調査結果】拒否から合意まで45%が7ヶ月以上かかっている

イエウール土地活用が大手調査会社(専門調査機関)に委託して2026年3月に実施した独自アンケート調査(有効回答194人)では、拒否されてから合意までの期間は4〜6ヶ月が34%と最も多いという結果が得られています。7〜12ヶ月と13ヶ月以上を合わせると45%で、半数近くが半年を大きく超えています。家賃6.8万円・7戸空室の状態で7ヶ月止まれば、逸失家賃だけで330万円を超える計算になります。

※出典:イエウール土地活用(調査主体:イエウール土地活用編集部)が、インターネットリサーチを専業とする大手調査会社(専門調査機関)に委託して実施した独自アンケート調査。調査手法はスクリーニング設問で条件該当者を抽出したうえでのインターネット調査(各項目単一回答)、実施時期は2026年3月上旬〜中旬、有効回答数は194人。対象は直近5年以内にアパートの取り壊しに伴う立ち退き交渉で入居者から明確に拒否された経験のある個人オーナー。該当者が限られ相談記録のみでは十分なサンプル数を確保できないため、外部の調査会社に委託したアンケート調査で補完しています。回答の内訳は「4〜6ヶ月」34%、「7〜12ヶ月」29%、「3ヶ月以内」21%、「13ヶ月以上」16%。

イエウール担当者
イエウール
担当者

3ヶ月以内に決着した21%と、13ヶ月以上かかった16%。何が違うのでしょうか。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私の経験では、拒否の理由が金額なのか生活なのかで期間がはっきり分かれます。金額が理由の拒否は、上乗せ額を一度で提示すれば数週間で決着します。長引くのは生活が理由の拒否です。転居先が見つからない、高齢で保証人がいない、子どもの学区を変えられないという事情は、お金では解けません。13ヶ月以上かかったケースは、この見分けをせずに金額だけを積み続けたものがほとんどです。」

イエウール担当者
イエウール
担当者

生活が理由の拒否だと分かった場合、大家は具体的に何をすればよいのでしょうか。

石川 龍明
専門家
アドバイス

「私は転居先を大家側から3件提示するようお伝えしています。手順は、第1に地元の管理会社に事情を伝えて候補を集める、第2に家賃・広さ・駅からの距離を現在の部屋と比べた表にする、第3に保証会社の審査が通る物件かを事前に確認しておく、という3段階です。私が関わったケースでは、この3件提示だけで金額を1円も動かさずに合意できた例が複数あります。金額よりも、次の住まいが決まる安心のほうが効きます。」

逆に、この見分けをせずに金額だけを積んでしまった大家の事例です。このケースで確認してほしいのは、拒否された1戸のために失った逸失家賃と、早期に上乗せした場合との差額です。

事例④|東京都足立区・木造アパート8戸・築41年(1戸の拒否で8ヶ月延びたケース)
項目 詳細
物件概要 東京都足立区/木造2階建て8戸(1DK)/築41年/家賃6.8万円/敷地86坪/駅徒歩14分/通知時の入居8戸(拒否したのは居住26年・80代単身世帯)
初期費用 立ち退き料 8戸合計812万円(7戸は平均88万円、拒否した1戸のみ196万円)。加えて逸失家賃380万円と弁護士相談料18万円が発生
自己資金 立ち退き料枠800万円。逸失家賃と弁護士費用は想定しておらず、追加398万円を建替えの自己資金から振り替えた
行動(プロセス) ①1ヶ月目:全戸に1戸85万円で通知 ②4ヶ月目:7戸が順次合意し退去、居住26年の1世帯のみ拒否 ③6ヶ月目:120万円へ増額、応じず ④9ヶ月目:150万円へ増額、応じず ⑤11ヶ月目:弁護士に相談し、拒否の理由が金額ではなく転居先の保証審査だと判明 ⑥12ヶ月目:地元管理会社と連携して保証会社の審査が通る物件3件を提示、196万円で合意 ⑦14ヶ月目:退去完了
結果 総負担1,210万円。7戸が空室となった8ヶ月間の逸失家賃380万円が最大の追加要因となり、着工は当初計画から8ヶ月遅れた
負担の内訳 金額
立ち退き料(7戸・平均88万円) 616万円
立ち退き料(拒否した1戸) 196万円
7戸空室期間(8ヶ月)の逸失家賃 380万円
弁護士相談料 18万円
総負担 1,210万円
専門家のアドバイスどおりに動いていた場合との差
6ヶ月目の時点で拒否の理由を聞き取り、転居先3件の提示と保証会社の事前確認を行っていれば、8ヶ月の遅延のうち少なくとも6ヶ月は短縮できた計算になります。7戸分6ヶ月の逸失家賃285万円と弁護士相談料18万円が発生せず、総負担は約900万円に収まった見込みです。増額を3回繰り返した結果、金額と時間の両方を失う形になりました。

※本ページの体験談は、2026年5月時点までに取り壊し・建替えを完了されたイエウール土地活用のご成約者様を対象に、運営事務局が2026年にメールにてアンケートを実施し、ご回答いただいた内容をもとに作成しています。費用・期間等の数値はご本人の回答をそのまま掲載しており、個人が特定できないよう氏名・住所等の情報は非公開としています。

この事例から読み取れるのは、拒否されたときに真っ先にやるべきことは増額ではなく、拒否の理由を聞き取ることだという点です。理由が生活側にある場合、金額を積んでも進まず、時間だけが費用として積み上がります。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「この事例で注目していただきたいのは、拒否から増額までの間に一度も理由を聞いていない点です。私は拒否された翌週に、金額の話を一切せずに『どういう住まいなら移れそうか』だけを聞く場を作るようお伝えしています。この一手が抜けると、増額の回数と期間がそのまま費用になります。」

拒否されたときに大家が取れる3つの手

拒否された状態から抜け出す方法は、増額以外にもあります。実務で効きやすい順に3つ挙げます。いずれも、金額を積むよりも先に検討する価値があります。

立ち退きを拒否されたときへの対策
  1. 1
    拒否の理由を「金額」と「生活」に切り分ける
    拒否された翌週に、金額の話を出さずに面談の場を作ります。「いくらなら」ではなく「どういう住まいなら移れるか」だけを聞きます。金額が理由なら上乗せ額の一括提示で決着し、生活が理由なら次の対策に進みます。
  2. 2
    転居先の候補を大家側から3件提示する
    地元の管理会社に事情を伝えて候補を集め、家賃・広さ・駅からの距離を現在の部屋と比べた表にします。高齢の入居者では、保証会社の審査が通る物件かを先に確認しておくことが決め手になります。
  3. 3
    建替え計画そのものを組み替える余地を確認する
    敷地の一部だけを先に解体して着工する分割案、あるいは建替えではなく売却に切り替える案を、建築会社と不動産会社の両方に当ててみます。総費用と回収年数を比べたうえで、待つべきか切り替えるべきかを判断します。

3つ目の「計画そのものを組み替える」という選択肢は、1社の建築会社に相談しているだけでは出てきません。建築会社は建てる前提の提案をしますし、解体業者は解体の提案をします。分割着工や売却への切り替えという判断は、複数の選択肢を同じ場で比べられる状態でないと検討できません。

拒否されたときの実務的な進め方については、聞きにくい本音の疑問も含めて専門家に確認してみました。

💬 専門家に聞いてみました
専門家
専門家

拒否されたときのご相談は本当に多いです。今日は遠慮なく、聞きにくいところから伺ってください。

相談者
相談者

正直に言うと、居住26年の80代の方が1戸だけ残っています。この方が亡くなるまで待つしかないのでしょうか。こんなことを考えてしまう自分が嫌なのですが、他の大家さんも同じことを考えるものなのでしょうか。

専門家
専門家

その考えが頭に浮かぶ方は珍しくありません。ただ、待つ判断は経営としては最も危険です。木造の法定耐用年数22年を大きく超えた建物は、待っている間に雨漏りや給排水の破損が起き、修繕費が毎年出ていきます。私が実際に見てきた中では、3年待って修繕費が280万円出たケースがあります。待つことは無料ではありません。

相談者
相談者

待つのが危ないのは分かりました。では、その1戸にいくらまで上乗せしていいのか、金額の上限を知りたいです。感覚で決めるのが怖いのです。ちなみに退去済みは7戸で家賃は1戸6.8万円、残った1戸には今120万円を提示しています。

専門家
専門家

7戸が空室のままなら、1ヶ月止まるごとに47.6万円が失われます。6ヶ月止まれば285万円です。つまり現在の120万円に対して、上乗せの上限は285万円まで置けます。合計405万円までなら、待つよりも安いという計算です。私は相談者にこの数字を先に出し、そのうえで「200万円で決着させる」と目標を決めてから交渉に戻るようお伝えしています。

相談者
相談者

405万円という上限と、200万円という目標。この2つの数字が持てただけで気持ちが軽くなりました。相手を待つのではなく、自分で期限と金額を決めて動けそうです。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私は上乗せの上限額を計算したら、その紙を必ず机の引き出しに入れておくようお伝えしています。交渉の場では相手の反応で気持ちが動きます。上限を先に決めて紙に書いておけば、その場の感情で上限を超えることも、逆に必要な上乗せをためらうこともなくなります。」

まとめ:拒否されたときの判断基準

  • 拒否の理由が金額の方は → 上乗せ額を一括で提示して決着させる
  • 拒否の理由が生活(転居先・保証審査・学区)の方は → 転居先3件の提示を先に行う
  • 1戸だけが残り期間が読めない方は → 分割着工か売却への切り替えを含めて総費用を比べ直す


立ち退き料込みで考えるアパート取り壊し・建替えの総費用感

立ち退き料+解体費+建築費の総費用モデル

ここまでで立ち退き料の目安は持てました。ただ、大家が本当に判断したいのは「建替えを進めるべきか」です。そのためには立ち退き料を全体の中に置いて見る必要があります。木造8戸のアパートを10戸に建替えるモデルで並べてみます。

前提となる条件をはっきりさせておきます。既存建物は木造2階建て8戸(1K中心)・延床70坪(約231㎡)・築43年・1戸あたり家賃6万円で、敷地は120坪です。これを同じ敷地に木造2階建て10戸・延床95坪(約314㎡)で建替えると想定しています。つまり、立ち退き料は早見表の「家賃5〜7万円未満×中度(築35〜45年)」のマス(1戸65〜105万円)に交渉対象8戸を掛けた金額、解体費は既存の延床70坪、建築費は新築の延床95坪に対して算出した数字です。総額1億1,035〜1億2,460万円という金額は、この8戸・延床70坪→10戸・延床95坪という前提の上に成り立っています。戸数や延床面積が変われば総額も比例して動くため、自分の物件の戸数・延床面積に置き換えて読み進めてください。

▼木造アパート8戸(延床70坪)を10戸(延床95坪)に建替える場合の総費用モデル(家賃6万円・築43年・敷地120坪)

費用項目 金額レンジ 算出の考え方
立ち退き料(8戸) 520〜840万円 早見表の家賃5〜7万円未満×中度(1戸65〜105万円)×8戸。全8戸が交渉対象になる前提の上限値
解体費(木造・延床70坪) 315〜420万円 坪4.5〜6.0万円。残置物処分・アスベスト事前調査を含む
建築費(木造10戸・延床95坪) 9,500〜10,500万円 坪100〜110万円。総費用の8割以上を占める最大項目
諸費用(設計・登記・保険・融資関連) 700万円前後 建築費の約7%
総額 11,035〜12,460万円 中位で約1億1,700万円
建替え後の想定家賃収入(年) 960万円 1戸8.0万円×10戸×12ヶ月(新築時の満室想定)。現行家賃6万円に新築プレミアムを乗せた水準
表面利回り 約8.2% 経費を引く前の、年間家賃収入÷総額で出した収益の割合

※建築費の坪単価は国土交通省「建築着工統計調査 住宅着工統計」の木造長屋建・共同住宅の工事費予定額をもとに、2026年の市況水準へ換算してイエウール編集部が作成しています。建築工事届に記載された工事費予定額から算出した坪単価であり、実際の工事費とは乖離がある場合があります。
※上記は周辺の家賃相場および木造建築費の市況(2026年時点)を反映したシミュレーションです。実際の建築費は、前面道路の幅員、地盤改良工事の有無、建材・設備のグレード等により大きく変動します。想定家賃収入は新築時の満室想定であり、将来の空室リスクや管理費用、固定資産税等の経費は考慮されていません。

この表の立ち退き料520〜840万円は、入居中の8戸すべてが交渉対象になるという最も厳しいケースを前提にした上限値です。前のH2「早見表の見方」で確認したとおり、実際に早見表へ掛けるのは全戸数ではなく、自発的な退去の申し出・定期借家契約・家賃滞納に該当する区画を除いた「交渉対象の戸数」です。相談の現場では8戸のうち2戸から3戸がこのいずれかに当てはまることが珍しくなく、交渉が必要な戸数は当初の想定より2割前後少なくなっています。仮に交渉対象が6戸なら390〜630万円となり、総費用も同じだけ下振れします。予算は上限値で組み、区画の仕分けができた段階で下方修正していく順序が安全です。

建替え後の想定家賃を1戸8.0万円としているのは、新築時に生まれる家賃の上乗せ分(新築プレミアム)を織り込んでいるためです。現行の6万円は築43年・設備も当時の水準という条件での家賃であり、同じ立地で新築・現行の設備仕様に更新した部屋であれば、募集家賃は現行より2〜3割高い水準に設定されるケースが多くなります。この記事の早見表で「老朽化が進んだ物件ほど周辺相場との家賃差額が大きい」という構造を示したのと同じ理由で、築年数と設備水準の差がそのまま家賃差として表れるからです。ただし新築プレミアムは築年数の経過とともに薄れていくため、8.0万円は新築当初の水準であり、10年後・20年後も同額で貸せる前提ではない点に注意してください。周辺の新築物件の募集家賃を先に調べておくと、この上乗せ幅が自分の立地で何割になるかを確かめられます。

現在の収入と比べてみましょう。家賃6万円・8戸で入居率が7割程度なら、年間の家賃収入は約403万円です。建替え後の960万円との差は年557万円になります。総額1億1,700万円を家賃の増加分だけで回収するには21年程度かかる計算です。木造の法定耐用年数(税務上、建物の価値がゼロになるまでの年数)が22年なので、ほぼ同じ長さになります。

この21年は「建築費が坪100〜110万円だった場合」の数字です。建築費は総費用の8割以上を占めるため、ここが1割違うだけで回収年数は2年以上動きます。つまり、総費用モデルの数字は自分の土地条件と建築会社の提案によって上下し、回収年数もそれに連動して動きます。以降の章では、支出のタイミング・立ち退き料が占める比率・売却や保有継続との比較を順に見ていきます。

解体費についても内訳を押さえておきましょう。木造アパートの解体は坪4.5万円から6.0万円が目安ですが、この金額に含まれない支出が3つあります。1つは入居者が残していった家具や家電の処分費で、8戸なら30万円から60万円かかります。2つ目は2022年4月の大気汚染防止法改正で義務化された着工前のアスベスト事前調査で、10万円から20万円が目安です。3つ目は前面道路が狭く重機が入れない場合の手作業による割増で、坪単価が1.5倍程度になることがあります。

この3点は見積もりの段階で明記されていないことが多く、着工後に追加で請求される原因になります。解体業者に見積もりを依頼するときは、残置物の処分・アスベスト調査・重機の進入可否の3点を含めた金額かどうかを必ず確認してください。より詳しい坪単価の考え方と業者選びの基準はアパートの解体費用の相場解体業者の探し方・選ぶポイントで確認できます。

この21年という数字をどう受け取るかが、建替え判断の入口です。長いと感じる方は、後述する「立ち退き料以外の変動幅」を確認してから判断してください。回収年数は総額次第で大きく動きます。より詳しい費用の内訳はアパート経営初期費用アパート建築費4000万円の記事も参考になります。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私は総費用を出したら、必ず1枚の表に3つの数字を並べるようお伝えしています。総額、建替え後の年間家賃収入、そして現在の年間家賃収入です。この3つが同じ紙に並んでいないと、金額の大きさだけに驚いて判断が止まります。差額で何年で回収できるかを先に出し、そのうえで戸数や仕様を調整する順序が実務的です。」

立ち退き料込みの総額と回収年数の目安は、これで持てました。ただ、その21年が自分の土地では何年になるのかは、建築費の坪単価と取れる戸数が分からないと確定しません。同じ土地条件で複数社の建替えプランを並べれば、建築費の差と回収年数の違いがその場で見えてきます。


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通知から完成までのスケジュールと支出のタイミング

総額が見えたら、次に気になるのは「いつからいくら必要になるか」です。立ち退き料は建替えローンに含められないことが多く、自己資金で先に用意する必要があります。ここを見落とすと、金額は足りているのに払うタイミングで資金が回らないという事態が起きます。立ち退きの流れと支出の時期を一覧にしておきます。

▼通知から新築完成までの標準的なスケジュールと支出のタイミング(木造8戸のモデル)

時期 やること この時期の支出
0〜3ヶ月目 募集停止、名義・権利関係の確認、修繕見積もりと耐震診断の取得、建替えプランの比較 資料代30〜60万円
3〜4ヶ月目 通知(解約の申し入れは6ヶ月前までに行う)、居住年数の長い世帯から個別説明 なし
4〜10ヶ月目 交渉、合意書の締結、順次退去 立ち退き料 520〜840万円(合意時に2〜3割、明け渡し時に残額)
10〜12ヶ月目 全戸退去の確認、解体業者の選定、アスベスト事前調査、解体着工 解体費 315〜420万円
12〜14ヶ月目 建築確認申請、融資の実行、新築着工 建築費の着手金(総額の1〜3割)と諸費用
20〜24ヶ月目 竣工、入居募集開始 建築費の残金

※上記は交渉が拒否なく進んだ場合の目安です。1戸でも拒否されると、4〜10ヶ月目の期間が3ヶ月から13ヶ月以上延びます。

この表で押さえてほしいのは、立ち退き料の支出が解体費・建築費より先に来るという点です。融資が実行されるのは新築の着工前後なので、それまでの資料代・立ち退き料・解体費は自己資金で立て替えることになります。8戸のモデルなら、着工前に900万円から1,300万円を用意しておく必要があります。

もう一点、家賃収入が入らない期間の長さも見ておいてください。最初の退去から竣工までは2年前後あり、その間の家賃はゼロに近づいていきます。年間400万円台の家賃収入があった物件なら、2年で800万円前後の減収です。この期間の生活費や固定資産税の支払いをどう回すかを、資金計画に含めておく必要があります。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私は着工前に必要な自己資金を、立ち退き料の上限額+解体費の上限額+100万円という式でお伝えしています。100万円は資料代と想定外の追加分の枠です。この金額が手元にない段階で通知を出すと、合意したのに払えないという最悪の展開になります。手元資金が足りない場合は、募集停止を長めに取って自然退去を待つ計画に切り替えるようお伝えしています。」

立ち退き料は総費用の約6%。見るべきはもっと大きな差

総費用モデルをもう一度見てください。立ち退き料の中位680万円は、総額1億1,700万円のうち約6%です。ここが今回の記事で一番お伝えしたい視点です。多くの大家の方は立ち退き料の金額に神経を集中させますが、金額として大きく動くのは別の項目です。

一般的なイメージでは「立ち退き料をいくら値切れるか」が建替えの採算を左右すると考えます。しかし実態は、建築費の坪単価が1社あたり8万円違うだけで、延床95坪では760万円の差になります。これは立ち退き料の中位680万円を上回る金額です。理由は、立ち退き料が総費用の6%にすぎない一方で、建築費が8割以上を占めているからです。1%の違いが効く項目に力を注ぐほうが、金額としてはるかに大きく返ってきます。

イエウール土地活用では複数の建築会社・解体会社と提携しており、同じ土地条件で複数社のプランを並べていただくことができます。同じ木造10戸の計画でも、会社によって坪単価だけでなく戸数の取り方や設備仕様の考え方が違います。1社の見積もりだけでは、その差が存在することにすら気づけません。

ここで、立ち退き料込みの総費用を把握した大家が、最終的にどの選択をしたのかを見ておきましょう。

調査結果

立ち退き料込みの総費用を確認した大家が最終的に選んだ出口の内訳

43% 建替えて 賃貸住宅を新築 43% 建替えて 賃貸住宅を新築 26% 土地を売却 19% 解体して 駐車場等に転用 12% 修繕して 保有を継続

※直近2年間にイエウール土地活用へ寄せられた老朽化アパートの取り壊し・建替え相談のうち、立ち退き料を含む総費用の試算まで進み、その後の進捗が確認できた約100件の相談記録を分析しています。回答の内訳は「建替えて賃貸住宅を新築」43%、「土地を売却」26%、「解体して駐車場等に転用」19%、「修繕して保有を継続」12%。外れ値(判断保留のまま2年以上進捗のない案件)は除外しています。

【調査結果】総費用を確認すると、建替え以外を選ぶ大家が57%

イエウール土地活用が自社の相談記録約100件を集計した結果では、立ち退き料込みの総費用を試算した後に建替えを選んだのは43%でした。残る57%は売却・駐車場等への転用・保有継続という別の出口を選んでいます。立ち退き料の金額そのものよりも、総費用と回収年数を並べて見たことが選択の分岐点になっています。

※出典:イエウール土地活用の自社集計。直近2年間に寄せられた老朽化アパートの取り壊し・建替え相談のうち、立ち退き料を含む総費用の試算まで進み、その後の進捗が確認できた約100件の相談記録を集計しています。回答の内訳は「建替えて賃貸住宅を新築」43%、「土地を売却」26%、「解体して駐車場等に転用」19%、「修繕して保有を継続」12%。

イエウール担当者
イエウール
担当者

建替えを選ぶ方が半数に届かないのは意外でした。この差はどこから生まれるのでしょうか。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「分岐点になるのは、私の見方では回収年数と自分の年齢の関係です。回収に20年以上かかる計画を60代で始めると、完済前に相続が発生します。相続人が引き継げる状態かどうかが問題になり、そこで売却へ切り替える方が出てきます。逆に、敷地の容積率に余裕があって戸数を増やせる土地なら、回収年数が15年前後まで縮み、建替えの判断がしやすくなります。土地の条件を確認することが最初の分かれ道です。」

では、回収年数を縮めるために大家は具体的にどう動けばよいのでしょうか。ここは提案を依頼するときの手順そのものが結果を左右します。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私は3社以上に同じ条件で提案を出させるようお伝えしています。手順は3つです。第1に、立ち退き料の上限額と敷地面積・建ぺい率・容積率を全社に同じ紙で渡す。第2に、坪単価ではなく総事業費と想定家賃収入をそろえた形で提出してもらう。第3に、回収年数を自分で計算して並べる。この方法で坪単価に8万円前後の差が出ることは珍しくなく、95坪なら760万円の違いになります。」

この手順どおりに3社を比べた大家の事例です。このケースで確認してほしいのは、立ち退き料の金額よりも建築費の差のほうが大きかったという点です。

事例⑤|茨城県つくば市・木造アパート8戸・築43年(3社の総事業費を比べたケース)
項目 詳細
物件概要 茨城県つくば市/木造2階建て8戸(1K)を10戸(1LDK)へ建替え/築43年/家賃5.9万円/敷地124坪/建ぺい率60%・容積率200%/バス停徒歩3分
初期費用 立ち退き料 8戸合計640万円(1戸平均80万円)/解体費362万円/建築費9,320万円/諸費用680万円。総額11,002万円
自己資金 自己資金1,800万円(立ち退き料640万円と諸費用の一部を充当)。融資については、ご本人が複数の金融機関に自ら相談されており、後日イエウール土地活用の相談窓口で経過をお伺いしたところ、条件に差があったとのことだった
行動(プロセス) ①1ヶ月目:立ち退き料の概算640〜1,000万円を算出し、敷地条件とあわせて1枚の資料にまとめた ②2ヶ月目:3社へ同じ資料を渡し、総事業費と想定家賃収入をそろえた形式で提案を依頼 ③3ヶ月目:坪単価98万円・104万円・106万円の3案が出そろい、最安案でも戸数は10戸を確保できることを確認 ④4ヶ月目:最安案を選び、差額780万円のうち300万円を設備仕様の引き上げに充当 ⑤5ヶ月目〜13ヶ月目:立ち退き交渉、全戸合意 ⑥15ヶ月目:解体着工
結果 建築費で780万円の差を確認。想定家賃収入は年972万円(8.1万円×10戸)となり、表面利回りは約8.8%。現在の年間家賃収入約354万円に対し、差額での回収年数は約18年
3社の提案比較(延床95坪・10戸) 建築費
A社(坪98万円) 9,320万円
B社(坪104万円) 9,880万円
C社(坪106万円) 10,100万円
最安と最高の差 780万円
専門家のアドバイスどおりに行動した結果
3社に同じ条件で提案を出させたことで、建築費に780万円の差があることが分かりました。この差額は立ち退き料の総額640万円を上回っています。立ち退き料を1戸10万円ずつ値切って80万円を削る努力と比べると、比較のほうが10倍近い効果になりました。差額の一部を設備仕様に回したことで、想定家賃を8.0万円から8.1万円へ引き上げられています。

※本ページの体験談は、2026年5月時点までに取り壊し・建替えを完了されたイエウール土地活用のご成約者様を対象に、運営事務局が2026年にメールにてアンケートを実施し、ご回答いただいた内容をもとに作成しています。費用・収益・利回りなどの数値はご本人の回答をそのまま掲載しており、個人が特定できないよう氏名・住所等の情報は非公開としています。

この事例から読み取れるのは、立ち退き料を抑える努力と建替えプランを比べる努力では、金額の桁が違うという点です。立ち退き料は総費用の6%、建築費は8割以上。力を注ぐ順番を間違えないことが、建替えの採算を最も大きく左右します。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「この事例で最も効いたのは、立ち退き料の概算を先に出してから提案を依頼した点です。私は総事業費に立ち退き料を含めた形で提出させるようお伝えしています。含めない形式だと、後から立ち退き料が乗った瞬間に返済比率が変わり、選んだプランが成立しなくなることがあります。」

建替え・売却・保有継続を同じ土俵で比べる

建替えを選ばなかった57%の方が何を比べたのかを整理しておきます。ここで大切なのは、何もしないという選択にも費用が発生しているという点です。築43年のアパートを保有し続ける場合、修繕費と空室による減収が毎年発生します。

▼3つの出口を10年間の収支で比べる(家賃6万円・8戸・築43年のモデル)

選択肢 初期の支出 10年間の収支見込み 向いている大家
建替えて新築する 1億1,700万円 家賃収入9,600万円/返済・経費を差し引き手残り約1,500万円 容積率に余裕があり、回収年数が20年以内に収まる土地の方
立ち退き後に土地を売却する 1,030万円(立ち退き料+解体費) 売却代金が一括で入り、以後の支出はゼロ 相続を近く控えている方、資金を他に回したい方
修繕して保有を継続する 3,200万円(大規模修繕) 家賃収入4,030万円/修繕費・空室増で手残りは目減りしやすい 耐震性に問題がなく、修繕後15年以上使える建物の方

※上記は本記事の総費用モデル(家賃6万円・8戸・築43年・敷地120坪)を前提とした10年間のシミュレーションです。家賃収入は入居率7割(年約403万円)を前提に算出しています。売却代金は立地・地価により大きく変動するため金額を記載していません。実際の収支は空室率・金利・修繕の実績により変わります。

この表を見て気づいてほしいのは、修繕して保有を継続する案の初期支出3,200万円が、決して安くはないという点です。3,200万円を投じても、建物は築43年のままで家賃も上がりません。何もしないという判断が最も安いという思い込みは、金額で確認すると崩れます。

そして、この3つを同じ土俵で比べられる立場は限られています。建築会社は建替えを、解体業者は解体を、不動産会社は売却を提案します。Speeeは土地活用・売却・リフォームの各サービスを同一グループ内で運営しており、直近2年間に寄せられた前掲の約100件でも、建替え43%・売却26%・駐車場等への転用19%・保有継続12%と、4つの出口すべてに相談が分かれています。1つの出口に偏らない実績があるため、建替えるべきか売るべきかという一段上の問いから相談していただけます。判断軸をもう少し詳しく確認したい方は土地活用の選び方建て替え・リフォーム・売却の選び方もあわせてご覧ください。

石川 龍明
専門家
アドバイス

石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

「私は3つの案を比べるとき、必ず同じ10年という期間で並べるようお伝えしています。順序は、第1に各案の初期支出を書く、第2に10年後の手残りを書く、第3に10年後に建物が何歳になっているかを書く、という3段階です。3つ目を書くと、修繕案では10年後に築53年になることが見えてきます。この一行があるだけで判断が変わる方が多くいらっしゃいます。」

まとめ:立ち退き料込みの総費用から見た出口の選び方

  • 容積率に余裕があり戸数を増やせる土地の方は → 建替え(回収年数が15〜20年に収まりやすい)
  • 相続が近い、または資金を他に回したい方は → 立ち退き後に売却
  • 耐震性に問題がなく修繕後15年以上使える方は → 修繕して保有継続
  • どの案が有利か判断がつかない方は → 3案の総費用と10年後の手残りを同じ紙に並べてから決める


アパート取り壊しの立ち退き料に関するよくある質問

本文で触れきれなかった疑問を3つに絞って回答します。いずれも相談窓口で繰り返し寄せられる質問です。

Q1. 支払った立ち退き料は経費(損金)にできますか

支払った年に全額を経費にできるとは限りません。取り壊し後に何をするかで扱いが変わり、建替えを前提に支払った場合は原則として新しい建物の取得価額に含めて減価償却します。詳細は次の3パターンに分かれます。

  1. 建替えのために支払った場合:新しい建物の取得価額に含め、耐用年数にわたって減価償却する
  2. 土地を売却するために支払った場合:譲渡所得を計算する際の譲渡費用として扱う
  3. 更地にして貸し出す場合:その年の必要経費として扱える場合がある

金額が大きく判断が分かれる部分なので、アパート経営で経費にできる費用で経費の考え方を確認したうえで、実際の申告は税理士に相談してください。

Q2. 立ち退きを拒否されてから実際に退去するまでどれくらいかかりますか

イエウール土地活用が大手調査会社(専門調査機関)に委託して2026年3月に実施した独自アンケート調査(有効回答194人)では、拒否から合意までの期間は4〜6ヶ月が34%と最も多く、7ヶ月以上かかったケースが45%という結果が得られています。合意後の実際の退去までは、通常さらに1〜3ヶ月かかります。訴訟に進んだ場合は第一審で1年から1年半が目安になります。期間を短くしたい場合は、増額よりも先に拒否の理由を金額と生活のどちらなのか切り分けることが有効です。

Q3. 立ち退き料はいつ受け取れるのですか(入居者側の疑問)

実務では、退去の合意書を取り交わした時点で一部(2〜3割)を支払い、鍵の返却と室内の明け渡しが完了した時点で残額を支払う分割の形が一般的です。全額を前払いすると退去が進まないおそれがあり、全額を後払いにすると入居者が新居の初期費用を払えないという問題が生じるためです。大家の側からは、合意書に支払時期と金額を明記しておくことが揉めごとを防ぐうえで重要になります。支払時期を含めた立ち退き料の全体像は立ち退き料はいくら?ケース別の計算方法と相場で確認できます。

まとめ:立ち退き料の目安を持ったら、次は総費用で比べる

アパート取り壊しの立ち退き料相場は、「家賃6ヶ月分」という単一の目安では判断できません。実際に支払われた金額の分布では、6ヶ月分以下で収まったのは23%にとどまり、最も多いのは7〜12ヶ月分相当でした。まずは早見表で自分の物件のマスを特定し、1戸あたりのレンジに戸数を掛けた総額を持つことが出発点になります。

そして老朽化だけを理由にすると、正当事由の説明力が弱いまま交渉に入ることになり、金額が上振れします。修繕見積もりと耐震診断という30〜60万円の資料で、数百万円の差を作れる場面があります。拒否されたときは増額を急ぐのではなく、理由を金額と生活のどちらなのか切り分けることが先です。

最後にもう一度お伝えしたいのは、立ち退き料が総費用の約6%にすぎないという事実です。建築費は8割以上を占め、同じ条件で3社に提案を出させれば数百万円の差が見えてきます。立ち退き料を値切る努力よりも、総費用で比べる努力のほうが桁違いに効きます。

  1. 早見表で自分のマスを特定し、1戸あたりレンジ×戸数で総額を出す
    上限側の金額を資金計画の前提に置き、下限との差額は交渉予備費として別枠に確保します。
  2. 修繕見積もりを3社から無料で取り、耐震診断の実施を検討する
    通知を出す前にこの2点をそろえると、増額交渉の回数を抑えられます。
  3. 退去が出た部屋の再募集を止め、残る入居者を居住年数の長い順に並べる
    着工日を決める前に始めることで、交渉相手の数を減らせます。
  4. 立ち退き料の上限額を伝えたうえで、3社以上に総事業費で提案を依頼する
    建築費・回収年数・想定家賃収入を同じ形式で並べて比べます。

相談先の選び方に迷ったときは土地活用の相談先もご覧ください。建替えを前提にせず、売却や保有継続も含めて中立に比べたいという段階からご相談いただけます。

立ち退き料込みの総費用感が持てても、建替えと売却のどちらが自分の土地に合っているかは、両方の数字を並べないと決められません。活用・売却・保有の選択肢をまとめて確認してから、進める方向を決めていきましょう。


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イエウール土地活用編集部

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