アパート経営は30年後どうなる?資産価値・出口戦略の見通し

アパート経営は「家賃収入が長く続く安定資産」というイメージを持たれがちですが、実際は築年数が経つほど資産価値・家賃ともに下がり、修繕費や空室といった負担が増えていくのが現実です。

30年という期間は、ローンを完済して資産を手にする人もいれば、想定外の出費や空室に悩まされる人もいる、結果が大きく分かれる節目でもあります。

この記事では、30年後に起こる変化の全体像から、自分の計画が30年後どうなるかの事前診断、出口戦略の選び方、始める前に決めておくべきポイントまで、5つの章で解説します。読み終える頃には、自分の土地・条件で30年後にどんな選択肢が残るのかを具体的に判断できる状態になります。

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目次

アパート経営30年後に起こる5つの変化(リスクの全体像)

アパート経営を30年続けると、建物・収入・資金計画のすべてに変化が起こります。まずは「何がどう変わるのか」の全体像を把握しておきましょう。

資産価値は新築時の約1/4まで下がる(築年数別の下落の目安)

アパートの資産価値は、新築時をピークに年々下がっていきます。木造アパートの場合、30年後の総合的な資産価値は新築時の1/4程度まで下がるケースが一般的です。

▼築年数別の資産価値の目安(新築時を100%とした場合)

築年数資産価値の目安主な要因
新築(0年)100%新築プレミアム・最も高い評価
10年55〜65%設備の経年劣化が始まる
20年30〜40%法定耐用年数(木造22年)に近づく
30年15〜25%建物価値はほぼゼロ、土地価値が中心

国土交通省「建築着工統計調査 住宅着工統計(2024年)」の構造別工事費単価をもとに、木造の法定耐用年数22年に応じた直線減価償却(建物部分)で試算し、過去10年平均でほぼ横ばいの国税庁路線価変動率を反映した土地価値を加算して算出。エリアの土地需要・建物の維持状態により変動します。

木造アパートの法定耐用年数とは、税務上、建物の価値がゼロになるまでの年数のことです。木造は22年と定められており、これを超えると金融機関の評価上、建物の価値はほぼゼロとして扱われます。

建物の価値がゼロになるなら、30年後に売っても意味がないってこと?

意外と見落とされがちですが、資産価値の下落そのものより「買い手が長期ローンを組めるかどうか」が売却価格を大きく左右します。法定耐用年数を超えた建物には、金融機関が住宅ローン・投資用ローンの審査で残存耐用年数を基準にするため、長期の融資がつきにくくなります。結果として買い手が現金購入できる層に限られ、相場より安い価格でしか売れないケースが出てきます。

つまり、資産価値の下落幅だけでなく「30年後、誰がローンを組んでこの物件を買えるか」まで考えておくことが、想定外の安値売却を避けるポイントになります。

資産価値の下落への対策
  1. 1 ローン残債が資産価値を上回る前に、毎年1回は概算評価額を金融機関・不動産会社に確認する
    残債と資産価値の差(オーバーローンの有無)を早期に把握しておくことで、売却・建て替えのタイミングを資金繰りに無理のない時期に選べる。
  2. 2 法定耐用年数を超える前(築20年前後)に、売却・建て替え時の想定買い手層を不動産会社に確認する
    耐用年数切れ後は買い手の融資条件が厳しくなる。買い手側の融資可否を見据えておくことで、相場より大幅に安い価格での売却を避けやすくなる。
  3. 3 大規模修繕・設備更新の履歴を書面で残し、売却時に提示できる状態にしておく
    維持管理の記録がある物件は、築年数が同じでも評価が下がりにくい。記録がないと買い手側の値引き交渉材料にされやすい。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

資産価値そのものより、買い手が融資を組めるかどうかが売却価格を決める場面が多くあります。

耐用年数切れの物件は、現金で買える層に限られてしまい、相場より安い価格での交渉を持ちかけられやすくなります。

築20年を過ぎたら、自分の物件にどんな買い手層が想定されるかを一度確認しておいてください。

家賃は新築時から2〜3割下がるのが一般的

家賃も資産価値と同様に、新築時をピークに下がり続けます。一般的に、30年経過したアパートの家賃は新築時の2〜3割程度低い水準に落ち着くケースが多く見られます。

▼新築時からの家賃下落の目安

新築〜10年
新築時の90〜95%
10〜20年
新築時の80〜85%
20〜30年
新築時の70〜80%

国土交通省「賃貸住宅市場の実態調査」の築年数別賃料指数(新築時を100とした場合の経年変化率)をもとに、2026年時点の全国平均水準へ換算してイエウール編集部が作成。エリア・設備更新の有無により変動する目安です。

2〜3割も下がるなんて、最初の家賃設定が高すぎたってこと?

見落とされがちですが、家賃の下落は「失敗した結果」ではなく、新築時の家賃に最初から「新築プレミアム」が含まれていることの裏返しです。新築時の家賃をそのまま30年間の収入計算に使うと、実質的に存在しない上乗せ分まで前提にしてしまいます。事業計画は「新築時の家賃」ではなく「10年後の家賃」を基準に組むほうが、実態に近い判断ができます。

家賃が新築時から2割下がった場合、家賃収入が月10万円の部屋なら月2万円、年間で24万円の収入減少につながります。これが10部屋あれば年間240万円の差となり、ローン返済や修繕費の積立に直接影響します。

家賃下落への対策
  1. 1 事業計画書のローン返済比率は「10年後の家賃(新築時の85%)」を基準に計算する
    新築時の満室想定家賃で返済比率を計算すると、10年後の家賃下落だけで赤字に転落するケースがある。下落後の家賃でも無理なく返済できるかを事前に確認する。
  2. 2 提示された事業計画の家賃設定が、周辺の「築10年経過物件」の実際の成約家賃と一致しているか確認する
    新築物件の家賃と比較するのではなく、築10年経過した近隣物件の実際の成約家賃と比較することで、最初から割高な想定で計画が組まれていないかを判断できる。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

新築時の家賃をそのまま30年間の収入計算に使っている事業計画は、提示された時点で見直しが必要です。

新築プレミアムが剥がれた後の家賃でも返済比率が成立するかどうかが、本当に見るべき数字です。

提案を受けたら『この家賃は何年後の想定か』を必ず確認してください。

大規模修繕費は10〜15年ごとに数百万円単位で発生する

アパートは10〜15年ごとに大規模修繕が必要になり、1回あたり数百万円の費用が発生します。これを見込まずに事業計画を立てると、30年間のどこかで資金繰りに詰まるリスクが高まります。

▼大規模修繕の周期と費用の目安(8世帯規模アパート)

時期主な内容費用の目安
築10〜12年外壁・屋根の補修、給排水設備の一部更新150〜300万円
築20〜25年外壁塗装の再施工、屋上防水、設備の大規模更新が重なりやすい時期300〜500万円
築30年前後給排水管の全面更新、内装リノベーション500万円〜

直近2年間におけるイエウール土地活用の累計1.4万人の見積もり・建築実例から集計した、8世帯規模アパートの大規模修繕の発生時期・費用帯の統計データです(外壁・屋根・給排水の各工事を時期別に分類し、発生件数の多い金額帯を抽出)。建物の構造・規模・施工会社により変動します。

毎月積み立てておけば、この表どおりに準備できるってこと?

均等に積み立てていても安心はできません。実態として、外壁・屋根・給排水の修繕周期は築20〜25年あたりで重なりやすく、その時期だけ出費が集中する「修繕の波」が来ます。さらに見落とされがちなのが、長期修繕計画書がない物件は、将来の借り換え・売却時に金融機関や買い手からの評価が下がるという点です。修繕費は「お金の準備」だけでなく「計画書として残すこと」自体が資産価値の維持につながります。

30年間でかかる修繕費の総額は、8世帯規模のアパートでおおよそ1,000〜1,500万円程度になることが多く、これを家賃収入から計画的に積み立てておく必要があります。

修繕費への対策
  1. 1 家賃収入の5〜10%を修繕積立として別管理し、築20〜25年の出費集中期に積立残高が不足しないか毎年確認する
    均等積立だけでは「修繕の波」の年に資金が足りなくなることがある。築15年を迎えたら積立残高と想定出費を一度比較しておく。
  2. 2 長期修繕計画書を建築会社・管理会社と作成し、書面として保管する
    計画書の有無は将来の借り換え・売却時の評価に影響する。築何年でいくら必要かを書面化しておくことで、急な出費だけでなく資産価値の維持にもつながる。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

修繕費は『毎月発生している費用』として扱ってください。

積み立てをしていても、計画書がないオーナーは『いつ・いくら必要か』を把握できておらず、修繕のタイミングで判断が遅れがちです。

積立と同時に、修繕計画書を必ず書面で残しておいてください。

築30年を超えると空室率が上昇し、入居者の高齢化も進む

築年数が進むほど空室率は上昇する傾向にあります。築30年を超えるアパートでは、新築・築浅物件と比べて空室率が高くなりやすく、加えて長期入居者の高齢化が進むという、もう一つの変化も起こります。

▼築年数別の空室率の目安

築10年
5〜10%
築20年
10〜15%
築30年
15〜20%

国土交通省「賃貸住宅市場の実態調査」の築年数別空室率データをもとに、2026年時点の全国平均水準へ換算してイエウール編集部が作成。エリアにより変動します。

長期入居者がいるなら、むしろ安定してるってことだよね?

長期入居者が多いことは、見方を変えると「将来の一斉退去リスクを後ろ倒しにしているだけ」という側面があります。例えば新築時に同年代の単身者が複数入居した場合、その世帯が同時期に高齢化し、医療機関や介護施設への入居などを理由に数年のうちに集中して退去することがあります。空室率の表は「平均」であり、実際には一時的にこの平均を大きく上回る空室期間が発生する可能性があります。

空室率上昇・一斉退去への対策
  1. 1 入居者の入居時期・年齢層の分布を管理会社に一覧化してもらい、同時期退去のリスクを把握する
    同年代の長期入居者が複数いる場合、数年以内に一斉退去が起こる可能性がある。退去の集中時期を事前に想定しておくことで、空室期間の収支インパクトに備えられる。
  2. 2 空室率が15%を超えたタイミングで、設備更新・リノベーションの投資対効果を一度見直す
    何もせず空室を放置すると家賃をさらに下げる悪循環に入りやすい。空室率を一つの判断基準として、対応のタイミングを決めておく。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

『退去が少ない=安定』とは限りません。

同時期に入居した世帯が同時期に退去すると、一気に複数部屋が空く事態になりやすいです。

入居者の年齢層・入居時期を一度棚卸しして、退去が集中しそうな時期を把握しておいてください。

ローンを35年で組むと、完済は30年後より後になる

アパート建築のローンは30〜35年で組むケースが多く見られます。35年ローンの場合、30年後の時点ではまだ完済しておらず、残債を抱えたまま資産価値の下落・家賃下落・空室増加に対応する必要があります。

▼ローン年数別・30年間の総支払利息の目安(借入額5,000万円・固定金利2.5%の場合)

ローン年数月々の返済額総支払利息(概算)
20年約26.5万円約1,360万円
25年約22.4万円約1,720万円
30年約19.8万円約2,130万円
35年約18.0万円約2,560万円

借入額5,000万円・固定金利2.5%・元利均等返済(ボーナス返済なし)を条件に、各ローン年数の月々返済額・総支払利息を試算した目安です。実際の返済額は金利タイプ・借入額・返済方式により変動します。

月々の差は8万円くらいなのに、総額だと1,200万円も違うの?

ここが見落とされやすいポイントです。月々の返済額の差は8万円程度に見えても、35年と20年では総支払利息に約1,200万円の差が生まれます。長期ローンは「毎月の負担を軽くする」ように見えて、実際は完済までの期間が伸びるほど利息という形で総コストが膨らんでいるだけです。30年後に完済しているかどうかは、この利息差とセットで考える必要があります。

ローン年数選びの対策
  1. 1 月々の返済額だけでなく、ローン年数別の「総支払利息」を金融機関に必ず提示してもらう
    月々の負担の軽さだけで判断すると、総コストの差を見落とす。複数の年数パターンで総支払利息を比較してから決める。
  2. 2 完済時の年齢を先に決めてから、借入年数・借入額を逆算して金融機関と調整する
    借入可能額から年数を決めると長期ローンに引き戻されやすい。先に完済時の年齢の上限を決めることで、総支払利息を抑えやすくなる。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

『月々いくら払えるか』だけで年数を決めると、総コストで損をします。

35年ローンは月々の負担が軽く見えますが、その分だけ完済までの期間が延び、支払う利息も増えています。

提案を受けたら、必ず『総支払利息』の比較表を出してもらってください。

ここまでで、30年後に起こる変化の全体像がつかめたね。次は、あなた自身の計画なら30年後どうなるかを具体的に見ていこう。

【事前診断】あなたの計画ならアパート経営30年後どうなる?タイプ別見通し

30年後にどんな状況になるかは、すべての人で同じではありません。ローン年数・立地・出口の希望によって、見通しは大きく変わります。ここでは3つの観点から、自分の計画が30年後どうなるかを診断していきます。

ローン年数が長いほど、30年後も返済中の可能性が高い

第1章で触れたとおり、ローン年数によって30年後の状況は大きく変わります。完済前に30年を迎えると、資産価値の下落・家賃下落・空室増加に、残債を抱えたまま対応することになります。アパート経営を検討する層は50〜60代が中心のため、借入時の年齢別に、何年ローンを組むと30年後にどうなるかを具体的に見ていきます。

▼借入時の年齢×ローン年数別・30年後(30年経過時点)の完済状況

借入時年齢15年ローン20年ローン25年ローン30年ローン
50歳完済済み完済直前残債あり残債あり
55歳完済直前残債あり残債あり残債あり
60歳残債あり残債あり残債あり残債あり

借入額5,000万円・固定金利2.5%・元利均等返済(ボーナス返済なし)を条件に、各ローン年数の完済年齢を「借入時年齢+ローン年数」で算出。判定基準は、完済年齢65歳以下を「完済済み」、66〜70歳を「完済直前」、71歳以上を「残債あり」と区分(一般的な就労継続年齢を踏まえた目安)。実際の完済状況は金利タイプ・借入額・返済方式により変動します。

60歳だとほとんど「残債あり」になっちゃうけど、そもそも60歳でローンって組めるの?

組めますが、ここに最も見落とされやすい落とし穴があります。金融機関の多くは「完済時年齢80歳前後」を融資条件の上限に設定しているため、60歳で借入する場合、希望年数より短い年数しか組ませてもらえないことがあります。つまり表の「30年ローン」自体が、60歳の借入では金融機関の審査段階で選べない可能性があるのです。年数を選ぶ前に、自分の年齢でそもそも何年まで組めるのかを先に確認する必要があります。

このシミュレーションはあくまで標準的な条件での目安です。実際の完済タイミングは、以下の要因によって前後します。

目安からズレる主な要因
  1. 金利タイプ:固定金利2.5%なら表の通りですが、変動金利を選んで途中で1%上昇すると、残り20年・5,000万円の借入で総返済額が約500万円増え、結果的に完済が計画より遅れます。「金利が低いから」と変動を選ぶと、上昇時に完済年齢の前提自体が崩れます。
  2. 返済方式:元金均等を選ぶと序盤の返済額は元利均等より重くなりますが、完済時期そのものは変わりません。「序盤がきつい=完済が遅れる」と誤解されがちですが、実際は逆で、元金均等は早い段階で残債を減らせるため、将来の借り換え・売却がしやすくなります。
  3. 繰り上げ返済の有無:年1回100万円の繰り上げ返済を5年間続けるだけで、30年ローンの完済時期は2〜3年程度前倒しできます。家賃収入の余剰を積立だけでなく繰り上げ返済にも回すかどうかで、表の「残債あり」が「完済直前」に変わる可能性があります。
長期ローンによる残債リスクへの対策
  1. 1 借入相談の最初に「自分の年齢で組める最長年数」を金融機関に確認する
    60歳前後の借入では、希望する30〜35年ローンが審査段階で選べないことがある。年数を検討する前に、選べる年数の上限を把握しておく。
  2. 2 家賃収入の余剰分を年1回100万円単位で繰り上げ返済に回し、完済を2〜3年単位で前倒しする
    修繕積立(家賃収入の5〜10%)を確保した上で、残った余剰を繰り上げ返済に充てる。50〜60代の借入では、完済前倒しが出口戦略の自由度に直結する。
  3. 3 完済前に75歳を超える見込みの場合は、家賃収入以外の返済原資(退職金・他資産)をあらかじめ確保しておく
    家賃収入だけに依存した返済計画は、家賃下落・空室増加と返済が重なるリスクがある。返済原資を複線化しておくことで、想定外の収入減にも対応しやすくなる。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

50〜60代の借入では『希望する年数』より先に『組める年数』を確認するのが先決です。

年数を決めてから審査で短縮を求められると、想定していた返済計画が崩れてしまいます。

借入相談の最初に、自分の年齢で選べる最長年数を必ず確認してください。

駅近・都市部なら出口の選択肢は広く、郊外は売却が難しくなりやすい

30年後の出口戦略の自由度は、立地条件によっても大きく変わります。駅近・都市部は需要が安定しやすく売却・建て替えどちらも選びやすい一方、郊外は土地需要そのものが下がっている場合、買い手や賃貸需要が見つからず出口の選択肢が絞られることがあります。

読者の9割はすでに土地を所有しており、エリアを選び直すことはできません。重要なのは「自分の土地の立地条件が、30年後どの出口に向きやすいか」を早めに把握しておくことです。

▼立地条件別・30年後の出口傾向

駅近・都市部
出口の選択肢が広い

土地需要が安定しており、築古でも売却・建て替えどちらも検討しやすい。賃貸需要も底堅く、リノベーションでの収益維持も選びやすい。

郊外・地方
選択肢が絞られやすい

人口減少エリアでは買い手が見つかりにくく、賃貸需要の低下で建て替えの投資回収も難しくなりやすい。解体して土地として売却する選択が現実的になるケースが多い。

うちは郊外だから、もう売却は諦めるしかないってこと?

郊外であっても、エリアの賃貸需要や周辺の開発動向によって状況は異なります。重要なのは「諦める」ことではなく、自分の土地の条件で実際に何ができるかを早い段階で確認しておくことです。

立地条件が不利な場合の対策
  1. 1 周辺エリアの直近3年間の成約事例数を不動産会社に確認する
    成約事例がほぼない地域では、将来の売却先が実際には存在しない可能性がある。「相場」だけでなく「動いている件数」を確認することが、出口の実現可能性を見極める材料になる。
  2. 2 賃貸需要が薄い場合は、解体更地化と賃貸継続の収支を本見積もりで比較する
    「いずれ解体するかもしれない」を見積もりなしで判断すると、解体費用・固定資産税の変化を見落としやすい。両方のシナリオを数字で比較してから方針を決める。
  3. 3 築20年を迎える前に複数社へ相談し、出口の選択肢を可視化しておく
    築30年を超えてから動くと、建て替え・リノベーションいずれも投資回収の見込みが立てにくくなる。判断の余地が残っている築20年前後で、選択肢を一度整理しておくことが重要。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

「立地条件が不利だからといって、今すぐ何かを決める必要はありません。

ただし、郊外エリアほど『何もしないまま30年が経過する』ことが最大のリスクになります。

築20年を迎える前に、一度自分の土地で実現可能な出口の選択肢を確認しておくことをおすすめします。」

「いずれ売却したい」か「子に継がせたい」かで、最適な建築プランは変わる

30年後の希望が「売却して資金化したい」か「子や親族に継がせたい」かによって、建築段階で重視すべきポイントは異なります。

▼出口の希望別・建築段階で重視すべきポイント

売却したい

立地の汎用性:間取り・規模が買い手にとって使いやすい設計を優先する

ローン完済時期:売却予定の年齢までに完済できる年数で組む

子に継がせたい

耐久性・修繕計画:長期運用を前提に構造・修繕サイクルを重視する

承継のしやすさ:相続時の名義整理・管理体制をあらかじめ検討する

売却を見据える場合は「次の買い手にとって使いやすい物件かどうか」が資産価値を左右します。一方、承継を見据える場合は、自分が経営できなくなった後も子や親族が管理しやすい体制を整えておくことが、30年後のトラブルを防ぐポイントになります。

出口の希望は途中で変わることもあります。完全に決め切れない場合でも、「売却・承継どちらでも対応しやすい設計」を建築会社に相談しておくと、後からの方向転換がしやすくなります。

出口の希望別の建築プラン【まとめ】

「売却したい」なら立地の汎用性とローン完済時期を、「継がせたい」なら耐久性と承継体制を重視してください。どちらか迷う場合は、建築段階で両方に対応できる設計を建築会社に相談するのが現実的な選択です。

専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

「出口の希望を建築段階で建築会社に伝えていないオーナーは、30年後に『こんな設計だと売れない・継がせにくい』と気づくケースが少なくありません。

間取り・構造・修繕計画は出口の希望によって最適解が変わります。

『将来は売却したいのか、継がせたいのか』を、契約前に必ず建築会社へ伝えてください。

自分のタイプが見えてきたね。次は、実際の出口戦略を4つ比較しながら、どれが自分に向いているか見ていこう。

アパート経営30年後の出口戦略4選を比較する(売却・建て替え・リノベーション・解体売却)

第1章・第2章で見てきたとおり、30年後には資産価値・家賃・修繕費・ローン残債のすべてが変化します。この変化を踏まえたうえで、自分の土地・条件に合った出口戦略を選ぶことが、30年後の経営を成功させる最後の分岐点になります。

4つの出口戦略を比較表で一覧(必要資金・期間・メリデメ)

出口戦略には大きく「売却」「建て替え」「リノベーション」「解体して土地売却」の4つがあります。まずは必要資金・期間・メリットとデメリットを比較表で確認しましょう。

▼出口戦略4選の比較(8世帯規模・木造アパートを想定)

戦略必要資金期間の目安メリットデメリット
売却 原則不要(仲介手数料程度) 3〜6ヶ月 現金化が早く、維持管理の負担から解放される 資産価値が下がった状態での売却となり、想定より低い価格になりやすい
建て替え 解体費+新築費(数千万円規模) 1〜2年 新築としての高い家賃・低い空室率を再び得られる 新たなローンを組む必要があり、完済時の年齢上限に注意が必要
リノベーション 新築の3〜5割程度 2〜4ヶ月 新築より低コストで競争力を回復できる 構造自体の老朽化(配管・耐震性等)は解決できない場合がある
解体して土地売却 解体費(数百万円規模) 2〜4ヶ月 建物の老朽化を理由に買い手から値引きされるリスクがなくなる 解体費が自己負担になり、賃貸収入を失った状態で売却活動が必要になる

直近2年間におけるイエウール土地活用の累計1.4万人の見積もり・建築実例から集計した、8世帯規模・木造アパートを前提にした費用・期間の目安です。立地・建物の状態・依頼先により大きく変動します。

どれが一番得かというより、結局何で選べばいいの?

この比較表を、どう使えばいい?

この比較表は「どれが一番得か」を決めるためのものではありません。4つの中から1つを選ぶための優劣表として使うことはできません。正しい使い方は、自分の「ローン残債」「立地条件」「出口の希望(売却か承継か)」という3つの軸で当てはまる戦略を絞り込むことです。

出口戦略比較表の正しい使い方【まとめ】
  1. 絞り込みの出発点として使う:ローン残債の有無で「売却・建て替え」と「リノベーション・継続」のどちらの系統に近いかをまず分ける
  2. 資金計画の事前確認に使う:建て替え・リノベーションを検討する場合、必要資金がいくらか早めに把握する
  3. 専門家への相談材料に使う:「うちは立地が△△、残債が〇〇万円」という条件を整理してから相談すると、的確なアドバイスが受けられる
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

この4つは『優劣』ではなく『条件によって選べる範囲が変わる』もの
同じ立地でも、ローン残債が多いか少ないかで実質的に選べる戦略は2つに絞られることがほとんどです。

まずは自分のローン残債と立地条件を整理したうえで、専門家に相談してください。

売却はローン完済済み・立地良好な人に向いている

売却は、ローンを完済している、または残債が少なく、かつ立地条件が良好な人に向いている出口戦略です。維持管理の負担から解放され、まとまった現金を手にできます。

築30年を過ぎたら、もう売却のタイミングは終わりってこと?

見落とされがちですが、売却に最も適したタイミングは「築30年を超えてから」ではなく「築25〜29年の間」です。築30年を超えると大規模修繕(給排水管の全面更新など)のタイミングが迫り、買い手側が「もうすぐ大きな修繕費がかかる」と判断して価格交渉の材料にされやすくなります。大規模修繕費を負担する前のタイミングで売却すれば、その分の出費を回避でき、結果的に手元に残る金額が増えるケースがあります。

売却を選ぶ場合の確認事項
  1. 1 築25〜29年の間に売却するか、大規模修繕後に売却するかを比較見積もりで判断する
    修繕費を払って高値で売るか、修繕前に安めで売るか、どちらが手元に多く残るかはケースによって異なる。両方のシナリオで複数社に査定を依頼する。
  2. 2 ローン残債がある場合は、売却額が残債を上回るか(オーバーローンの有無)を事前に金融機関で確認する
    残債が売却額を上回ると、自己資金での補填が必要になる。売却活動を始める前に必ず確認する。
  3. 3 複数の不動産会社に「現状売却」と「解体後売却」両方の見積もりを依頼し、価格差を比較する
    建物付きで売るか解体して売るかで、最終的な手取り額が変わることがある。両パターンの査定を取ってから決める。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

『売るタイミング』は、築年数だけでなく『次の大規模修繕の直前』を基準に考えてください。

修繕費を払った直後に売るオーナーが多いですが、その出費分を回収できるとは限りません。

大規模修繕の見積もりを取るタイミングで、同時に売却の査定も依頼してみてください。

建て替えは立地に魅力があり再投資できる資金がある人向き

建て替えは、賃貸需要が高いエリアに土地を持ち、新たな借入や自己資金での再投資が可能な人に向いています。新築として家賃・空室率の両方を改善できる一方、新たなローンを組む必要があります。

建て替えれば、また新築の家賃で30年続けられるってこと?

第2章で触れたとおり、金融機関の多くは完済時年齢80歳前後を融資の上限にしています。60代で建て替えのための新規ローンを組む場合、希望する30年・35年の融資は受けられず、15〜20年程度に短縮された条件しか提示されないことがあります。建て替え後の家賃収入だけで月々の返済額が成立するかを、契約前に必ず確認する必要があります。

建て替えを選ぶ場合の確認事項
  1. 1 建て替え用ローンで自分の年齢で組める最長年数を金融機関に確認してから収支計画を立てる
    短い年数しか組めない場合、月々の返済額が想定より重くなる。事業計画より先に融資条件を確認する。
  2. 2 複数社に建て替え後の収支シミュレーションを依頼し、入居率70%でも返済が成立するかを確認する
    満室想定の収支だけで判断すると、空室発生時に返済が苦しくなる。最悪ケースでの試算を必ず依頼する。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

「建て替えは『新築に戻れる』という安心感がありますが、60代での再ローンは想定より厳しい条件になることがほとんどです。

融資条件を確認せずに事業計画を進めると、後から計画自体を見直すことになります。

建て替えを検討する際は、最初に金融機関へ融資条件を確認してください。

リノベーションは資金を抑えて家賃を維持したい人向き

リノベーションは、建て替えほどの資金を用意できないが、家賃の維持・改善を図りたい人に向いている選択肢です。新築の3〜5割程度の費用で、競争力を一定期間回復できます。

建て替えより安いなら、リノベーションのほうが断然お得なんじゃないの?

費用だけ見るとそう思えますが、リノベーションは内装・設備の見た目を新しくできても、配管の劣化や耐震性といった「構造そのものの老朽化」は解決できないことが多くの記事で見落とされています。築30年を超える木造アパートでは、配管の経年劣化により漏水リスクが高まっており、内装だけ綺麗にしても数年後に配管トラブルで再度工事が必要になるケースがあります。リノベーションの範囲に給排水管の更新が含まれているかどうかが、本当に確認すべきポイントです。

リノベーションを選ぶ場合の確認事項
  1. 1 見積もりに「給排水管の更新」が含まれているかを工事範囲の項目で確認する
    内装だけのリノベーションだと、数年後に配管トラブルで追加工事が必要になることがある。表面的な工事範囲だけで判断しない。
  2. 2 リノベーション後に何年程度の競争力回復が見込めるかを施工会社に確認し、次の出口戦略の検討時期を決めておく
    リノベーションは恒久的な対策ではなく、一定期間の延命策である。「次に何をするか」の検討時期を最初から決めておくと、判断が後手に回らない。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

リノベーションは『見た目を新しくする工事』と『構造を守る工事』を分けて考えてください。

内装だけの工事で満足してしまい、数年後に配管トラブルで再投資が必要になるケースを見てきました。

見積もりの工事範囲に給排水管の更新が含まれているか、必ず確認してください。

解体して土地売却は賃貸需要が見込めない場合の最終手段

賃貸需要そのものが見込めないエリアでは、解体して土地のみで売却する選択が現実的になります。築古の建物がついていることで買い手の値引き交渉材料にされやすいため、解体した方が高値で売れることがあります。

解体すればすぐに売れるようになるってこと?

解体しても、賃貸需要が見込めないエリアは土地としての需要も同時に弱いことが多く、解体後も売却に時間がかかるケースがあります。解体費を払って更地にする前に、その土地の成約事例(実際に売れた件数)を確認しておくことが重要です。

解体・更地売却を選ぶ場合の確認事項
  1. 1 解体前に「現状売却」と「解体後売却」両方の査定を取り、解体費を払う価値があるか比較する
    解体費(数百万円規模)をかけても、売却額の上昇分がそれを上回らない場合がある。両方の査定額を比較してから判断する。
  2. 2 解体後は固定資産税の住宅用地特例が外れ税額が上がる可能性があるため、解体から売却完了までの想定期間を事前に確認する
    更地期間が長引くと、税負担が増えた状態が続く。売却までの想定期間を不動産会社に確認し、解体のタイミングを逆算する。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

解体は『最後の手段』であり、解体すれば必ず売れるわけではありません。

解体後に固定資産税の負担が増えた状態で売却活動が長引くケースもあります。

解体前に、現状売却との査定比較と、解体後の想定売却期間を必ず確認してください。

出口戦略の選び方がわかってきたね。次は、これからアパート経営を始める人が、着工前に決めておくべきポイントを見ていこう。

30年後を見据えて ー アパート経営を始める前に決めておくべき4つのポイント

ここまでの内容を踏まえ、これからアパート経営を始める方が着工前に決めておくべき4つのポイントを整理します。建築会社との打ち合わせ前に確認しておくことで、30年後の選択肢を狭めずに済みます。

ローン年数は「完済時の年齢」から逆算して決める

第1章・第2章で解説したとおり、ローン年数は「月々の返済額の安さ」ではなく「完済時の年齢」から逆算して決めることが重要です。

完済時の年齢、何歳を目安にすればいいの?

意外に思われるかもしれませんが、「65歳」を基準にする理由は年金受給開始年齢だけではありません。多くの金融機関が新規ローンの審査で重視する「完済時年齢80歳」という上限から逆算すると、65歳で完済していれば、その後15年の間にもう一度建て替え用のローンを組む余地が残ります。完済時65歳は『生活の安心』と『30年後の再投資の自由』を両方確保できる境界線になっています。

ローン年数を決める際の対策
  1. 1 着工前に「完済時65歳」を条件として、借入時の年齢から年数を逆算する
    借入可能額から年数を決めると長期化しやすい。完済時の年齢を先に決め、そこから年数・借入額を金融機関と調整する。
  2. 2 自己資金比率を総事業費の20〜30%以上に設定し、返済比率40〜50%以下を目安に借入額を抑える
    自己資金を増やすことで借入額・年数を圧縮でき、完済時65歳の目安に近づけやすくなる。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

完済時65歳という基準は『老後の安心』だけの話ではありません。

30年後にもう一度建て替えという選択肢を残せるかどうかにも直結します。

着工前の打ち合わせで、必ず『完済時65歳』を条件として伝えてください。

立地選びを誤ると30年後の出口の自由度が狭まる

第2章で触れたとおり、立地条件は「土地としての評価」と「賃貸としての評価」の2軸で確認する必要があります。すでに土地を所有している場合、これから立地を選び直すことはできませんが、自分の土地の条件を正しく把握しておくことが出口戦略の自由度を左右します。

すでに持っている土地だから、もう手遅れってこと?

手遅れではありません。重要なのは、自分の土地が「賃貸需要」「土地としての需要」のどちらに強いかを把握し、それに合わせて間取り・構造・規模を決めることです。賃貸需要が弱いと判明している場合は、最初から「将来は解体前提」で減価償却を組むなど、設計段階で対応できる部分があります。

立地条件を踏まえた建築段階の対策
  1. 1 着工前に周辺エリアの持ち家比率・賃貸空室率・直近3年の土地成約事例数を不動産会社に確認する
    この3つの数値で「賃貸に強いか」「土地として売りやすいか」がおおよそ判断できる。建築プランを決める前に確認する。
  2. 2 賃貸需要が弱いと判明した場合、木造など解体費を抑えやすい構造を建築会社に相談する
    将来的に解体・土地売却が現実的な出口になりやすいエリアでは、解体費が高いRC造より木造を選ぶ方が出口戦略の負担を抑えられる場合がある。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

立地は変えられませんが、立地に合わせた構造選びはできます。

賃貸需要が弱いエリアで高額なRC造を建ててしまうと、将来の解体費がかさみ、出口の選択肢をさらに狭めることになります。

着工前に、立地特性に合った構造かどうかを建築会社に確認してください。

修繕費は家賃収入の5〜10%を毎月積み立てておくのが目安

第1章で触れたとおり、30年間で1,000〜1,500万円規模の修繕費が発生します。家賃収入の5〜10%を毎月積み立てておくことが、資金繰りに詰まらないための基本的な目安です。

積立さえしていれば、それで安心ってことだよね?

積立だけでは不十分なことがあります。第1章で触れたとおり、外壁・屋根・給排水の修繕周期は築20〜25年あたりで重なりやすく、その時期に出費が集中します。均等積立だけでは、この「修繕の波」の年に積立残高が不足するケースがあるため、着工時点で長期修繕計画書を作成し、年ごとの必要額と積立残高を見比べられる状態にしておくことが重要です。

修繕費の積立に関する対策
  1. 1 着工時に建築会社・管理会社と長期修繕計画書を作成し、家賃収入とは別の口座で積立を管理する
    計画書がないまま積立だけしていると、出費が集中する年に不足していることに気づきにくい。築何年でいくら必要かを書面で可視化しておく。
  2. 2 築15年を迎えたタイミングで、積立残高と築20〜25年の想定修繕費を一度比較する
    早めに不足が見込まれる場合、積立比率を引き上げるなどの調整が間に合う。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

『積み立てている』ことと『必要な時に足りている』ことは別問題です。

計画書がないまま積み立てているオーナーほど、修繕の波が来る年に資金不足に気づくケースが多いです。

着工時点で長期修繕計画書を作成し、毎年積立残高を見比べる習慣をつけてください。

相続させる予定があるなら、建築段階で承継方法も決めておく

第2章で触れたとおり、「いずれ子に継がせたい」という希望がある場合は、建築段階で承継方法もあわせて検討しておく必要があります。

承継って、相続が起きたときに考えればいいんじゃないの?

相続が起きた後では遅い場合があります。第2章で触れたとおり、本人が認知症などで判断能力を失った場合、相続が発生する前の段階で修繕・契約更新の判断ができなくなるリスクがあります。家族信託・任意後見契約といった仕組みは、本人の判断能力があるうちにしか契約できません。「承継方法を考えるタイミング」は相続発生時ではなく、建築段階・着工前であることが、見落とされやすいポイントです。

承継を見据える場合の建築前対策
  1. 1 着工前に司法書士・税理士へ相談し、家族信託または任意後見契約の利用可否を確認する
    本人の判断能力があるうちにしか契約できない仕組みのため、建築費の検討と同時並行で進める。
  2. 2 建物の名義・ローンの連帯債務の組み方を、承継予定の子・親族を含めて建築前に話し合う
    名義・債務の組み方によって、相続発生時の手続きの複雑さが変わる。建築段階で関係者を含めて方針を固めておく。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

承継の準備は『相続が起きてから』では遅いケースがほとんどです。

家族信託などの仕組みは、本人の判断能力があるうちにしか契約できません。

『継がせたい』という希望があるなら、着工前の打ち合わせで専門家への相談もセットで進めてください。

決めておくべきポイントが見えてきたね。最後に、失敗しないために検討段階でやっておくべきことを見ていこう。

30年後にアパート経営で失敗しないために、検討段階でやるべきこと

ここまで解説してきた変化・診断・出口戦略・着工前のポイントを実際の計画に反映するためには、検討段階での比較と相談が欠かせません。

複数社の事業計画を比較すると30年後の収益差が見えてくる

1社だけの提案を見て決めると、その会社の前提条件(家賃想定・空室率・修繕費の見込み)が標準的かどうかを判断できません。複数社の事業計画を比較することで、30年後の収益にどの程度の差が出るかが見えてきます。

建築費が安い会社を選べば、それで十分じゃないの?

建築費の安さだけで選ぶと見落としやすいのが、事業計画書に書かれている「家賃想定」と「空室率の想定根拠」です。建築費が安い会社ほど、満室想定・新築時の高い家賃で30年間の収支を計算し、表面的な利回りを高く見せている場合があります。建築費の差より、家賃下落・空室率の想定根拠の差のほうが、30年後の収益に大きな影響を与えることが少なくありません。

事業計画を比較する際の対策
  1. 1 各社の事業計画書で「空室率の想定根拠」を確認し、地域の直近3年間の空室率データを使っているか比較する
    強気な満室想定で計算している会社は、後から計画を修正できない構造になりやすい。データの根拠を確認することが信頼性の見極めポイントになる。
  2. 2 30年間の収支シミュレーションに、10年ごとの家賃下落(2〜3%)と修繕費の発生時期が反映されているか確認する
    新築時の家賃のまま30年間計算している事業計画書は実態と離れている。下落・修繕費を反映した計画になっているかを比較する。
  3. 3 イエウール土地活用などの一括プラン請求を活用し、最低3社以上の事業計画を同条件で比較する
    1社だけでは比較基準を持てない。同じ土地条件で複数社に依頼することで、想定の妥当性を判断しやすくなる。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

建築費の差より、事業計画書の『前提条件』の差のほうが30年後の収益を左右します。

満室想定・新築時家賃のままの計画書を信じてしまい、数年後に収支がずれて気づくオーナーを何度も見てきました。

提案を比較する際は、必ず空室率・家賃下落の想定根拠を確認してください。

着工前に専門家へ相談すると出口戦略まで含めた計画が立てられる

建築会社との打ち合わせは「どんな建物を建てるか」が中心になりやすく、30年後の出口戦略まで踏み込んだ相談は後回しにされがちです。着工前に専門家へ相談することで、出口戦略まで含めた一貫した計画を立てられます。

出口戦略の相談って、建築会社にすればいいんじゃないの?

建築会社は「建てること」が専門であり、30年後の売却・承継・税務といった出口戦略まで一貫して相談できるとは限りません。融資条件は金融機関、相続対策は税理士・司法書士、出口の市場性は不動産会社など、相談先が分かれていることを理解しておく必要があります。

着工前の専門家相談の進め方
  1. 1 建築会社への相談時に「完済時年齢」「出口の希望(売却・承継)」「立地の賃貸需要」の3点を最初に伝える
    建築会社は依頼がなければ出口戦略まで提案しないことが多い。最初に希望を明示することで、それに合った設計・融資プランを提示してもらえる。
  2. 2 承継を検討している場合は、建築会社の紹介だけでなく自分でも税理士・司法書士に直接相談する窓口を確保する
    建築会社経由の紹介だけに頼らず、複数の専門家の意見を比較できる状態にしておくと、判断の精度が上がる。
専門家のアドバイス
石川 龍明(アパートメントクリエーター・賃貸経営リスクコンサルタント)

※RC系建築・経営コンサルティング歴20年以上・累計440件以上の案件支援

『建てる相談』と『出口の相談』は分けて考えてください。

建築会社に任せきりにすると、出口戦略の視点が抜けたまま計画が進んでしまうことがあります。

着工前に、完済時年齢・出口の希望・立地の賃貸需要の3点を、自分から建築会社へ伝えてください。

ここまでお疲れさま。最後に、今日からできるアクションをまとめておくね。

アパート経営30年後を考えたときに、やるべきこと

アパート経営を30年後まで見据えると、資産価値・家賃・修繕費・空室率・ローン残債のすべてが新築時とは異なる状態になります。第2章の診断で見えてきた自分のタイプに応じて、今日からできるアクションを整理しておきましょう。

今日からできる3つの確認アクション
  1. 1 自分のローン残債・完済予定年齢を確認し、「完済済み型」「完済直前型」「残債あり型」のどれに当たるかを把握する
    第2章の診断結果に応じて、優先すべき対策(繰り上げ返済・出口の前倒し検討など)が変わる。
  2. 2 自分の土地の「賃貸需要」と「土地としての需要」を不動産会社に確認し、出口戦略の方向性を仮決めする
    立地特性によって、向いている出口戦略(売却・建て替え・リノベーション・解体)が変わる。
  3. 3 複数社の事業計画・収支シミュレーションを比較し、空室率・家賃下落の想定根拠を確認する
    1社だけの提案では前提条件の妥当性を判断できない。最低3社以上を比較してから着工を決める。

30年後の見通しは、ローン年数・立地・出口の希望によって一人ひとり異なります。自分の土地・条件で実際にどんな事業計画・出口戦略が成立するかは、複数社のプランを比較しながら確認するのが最も確実な方法です。

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\ この記事の編集者 /

イエウール土地活用編集部

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